share

特集

2013/08/01
研究室おじゃまします!
各分野の最先端で活躍する東海大学の先生方の研究内容をはじめ、研究者の道を志したきっかけや私生活まで、その素顔を紹介します。

「楽しい」「面白い」を形に

エンターテインメントの視点で
デザインの可能性を広げる

教養学部芸術学科デザイン学課程 池村明生 教授

十分な機能性を持ちながらも実用一辺倒ではなく、思わずクスッと笑ってしまうようなユニークさで、私たちの暮らしに潤いや楽しみを与えてくれる―。閉塞感の漂う時代の空気と密接にかかわっているといわれる「エンターテインメントデザイン」とは何なのか? 教養学部の池村明生教授に聞いた。

「エンターテインメントとデザインという2つの言葉は、それぞれ広く知られています。でも、〝エンターテインメントデザイン〞という言葉が一般的に使われだしたのは、ここ最近のこと。デザインの概念としては、比較的新しいものなのです」と語る池村教授。
 
エンターテインメントデザインとは、グラフィック、プロダクト、インテリアといった従来のデザインカテゴリーのすべてを貫く縦軸のような存在。幅広い表現方法を駆使し、癒やしや潤いを欲する人々の心に訴えかけるデザイン手法を指す。
 

戦後の日本におけるデザインとは、産業振興を支える要素の一つであり、必要とされていたのは「美しい」「使いやすさ」「安い」といった価値観。しかし、経済成長の時代から閉塞感が漂う時代に変化していく過程で、さまざまなひずみが生まれ、それを埋めるために人々は心の癒やしを欲するようになっていく。「その結果、デザインにも『楽しい』『面白い』『癒やされる』といった要素が求められるようになっていきました。1990年代後半から、エンターテインメントデザインが生活雑貨を中心に、世の中に浸透するようになっていったのです」

地域ブランドをデザイン化する
教養学部では、2005年のカリキュラム改訂でデザイン学課程に5つの専門コースを新設。その一つとして、エンターテインメントデザインコースが誕生した。池村教授は07年から同コースの教育に携わっているが、「東海大学は〝エンターテインメントデザイン〞という言葉を使い始めた、先駆けの存在なのかもしれませんね」と笑う。
 
学生たちを教えるにあたって池村教授が重視しているのは、生活者の視点に立つ〝一人称のデザインをする〞ということ。自分が面白くなければ、他人を面白がらせることはできない。自分自身の作品を見たときに、「これは面白い」と思えるかどうかを考えることが大事だという。
 

エンターテインメントデザインの対象となるのは、モノ、コト、スペースなど広範囲に及ぶ。現在、池村教授が学生とともに積極的にかかわっているのが、地域ブランドのデザイン化だ。教養学部独自の教育プログラム「SOHUMプログラム」の一環で、湘南地域ブランドの創造をテーマにした活動を展開。農産物の地産地消推進や観光地をアピールするキャラクターの開発、イベントのサポートなどを、市の担当者や地元住民らと連携して取り組んでいる。
 
「地域ブランドのデザイン化にあたっての私の役割は、プロジェクト全体を見渡すプロデューサー。実際に考え、形にして提案するのは学生の役割です。学生のアイデアが市の担当者らの心に響いたとき、その人の中で眠っていた何かが呼び起こされ、相乗効果となってより良いものを生み出すことができる。一人ひとりが持っている〝思い〞を形として表現できる―それこそがデザインの力であり、可能性なのではないでしょうか」

(写真上から)
▽エンターテインメントデザインコースの実習成果を発表する学内展覧会「Surprise BOX」(7月16日から20日まで、湘南校舎で開催)の会場風景。「〝びっくりする〟ということは、常識や普通と感じる状態があるから。まずは当たり前とは何かを考えることが大事」と池村教授
▽農体験エリア「ひらつか花アグリ」のマスコットキャラクター“あぐりちゃん”。平塚市商業観光課の依頼を受け、学生がデザインした。このほかにも、同市の観光拠点をアピールするための多彩な活動が進められている
▽平塚産農産物の地産地消を推奨する「“ひらベジ”プロジェクト」。平塚市農水産課の依頼を受けて取り組んでいるもので、“ベジ太”のキャラクターデザイン、関連イベントのサポートなどを担当している

 


focus
真面目でも不真面目でもなく
“非真面目”を目指してほしい


大学時代は液体を使って泡が動く作品、卒業後は石膏(せっこう)や真鍮(しんちゅう)板を使ったミックス・ド・メディアと呼ばれるオブジェクト作品を作り続けていたという池村教授。「ジャンルにこだわらず、見た人が楽しくなるようなものばかり作っていました。それが、現在の専門であるエンターテインメントデザインに結びついたのだと思います」
 
高校時代は美術部に所属。美術大学に進学したが、そこで気づいたのが、周囲には自分よりもっと作品を創造することに長けている人がいる、ということ。「それで、『自分の適性はどこにあるのだろう』『級友たちができないことを探そう』と必死になって考えました」
 
大学院修了後は、展覧会やアートイベントのプロモーション会社に就職。そのかたわら非常勤講師を務め、やがて大学教授に。「いい意味で人を裏切るのが好きなんです」と軽やかに笑う。「堅苦しく考えると解決しない問題が、世の中にはたくさんあります。真面目でも不真面目でもなく、非真面目を目指す。若者にはそんな感覚を大事にしてほしいですね」

☆☆☆
いけむら・あきお 1960年神奈川県生まれ。東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。同大学院美術研究科デザイン専攻修了。専門はエンターテインメントデザイン、アートプロデュース、デザインコンサルテーション。著書に『空間づくりにアートを活かす』がある。

研究室おじゃまします!記事一覧

2024/02/01

アスリートの競技能力向上目指し

2024/01/01

適切なゲノム医療推進に向け

2023/04/01

湘南キャンパスの省エネ化へ

2023/02/01

"日本発"の医療機器を世界へ

2022/06/01

細胞のミクロ環境に着目し

2022/04/01

遺構に残された天体の軌道

2022/01/01

海洋学部の総力を挙げた調査

2021/12/01

体臭の正体を科学的に解明

2021/10/01

メタゲノム解析で進む診断・治療

2021/06/01

将棋棋士の脳内を分析

2021/03/01

低侵襲・機能温存でQOL向上へ

2021/02/01

安心安全な生活の維持に貢献

2020/11/01

暮らしに溶け込む「OR」

2020/09/01

ネルフィナビルの効果を確認

2020/07/01

次世代の腸内環境改善食品開発へ

2020/06/01

運動習慣の大切さ伝える

2020/05/01

ゲンゴロウの保全に取り組む

2020/03/01

国内最大級のソーラー無人飛行機を開発

2019/11/01

新規抗がん剤の開発に挑む

2019/10/01

深海魚の出現は地震の前兆?

2019/08/01

隠された実像を解き明かす

2019/06/01

椎間板再生医療を加速させる

2019/05/01

自動車の燃費向上に貢献する

2019/04/01

デザイナーが仕事に込める思いとは

2019/03/01

科学的分析で安全対策を提案

2019/02/01

幸福度世界一に学べることは?

2019/01/01

危機に直面する技術大国

2018/12/01

妊娠着床率向上を図る

2018/10/01

開設3年目を迎え利用活発に

2018/09/01

暗記ではない歴史学の魅力

2018/08/01

精神疾患による長期入院を解消

2018/07/01

望ましい税金の取り方とは?

2018/05/01

マイクロ流体デバイスを開発

2018/04/01

ユニバーサル・ミュージアムとは?

2018/03/01

雲やチリの影響を解き明かす

2018/02/01

海の姿を正確に捉える

2018/01/01

官民連携でスポーツ振興

2017/11/01

衛星観測とSNSを融合

2017/10/01

復興に向けて研究成果を提供

2017/09/01

4年目を迎え大きな成果

2017/08/01

動物園の“役割”を支える

2017/06/01

交流の歴史を掘り起こす

2017/05/01

波の力をシンプルに活用

2017/04/01

切らないがん治療を目指す

2017/03/01

心不全予防への効果を確認

2017/02/01

エジプト考古学と工学がタッグ

2017/01/01

コンクリートの完全リサイクルへ

2016/12/01

難民問題の解決策を探る

2016/11/01

臓器線維症の研究を加速

2016/10/01

情報通信技術で遠隔サポート