特集
2013/10/01角膜表面の反射画像から
注視対象の情報を取り出す
情報理工学部コンピュータ応用工学科 竹村 憲太郎 講師
人は、その視線の先に何を見ているのか? それを調べる視線計測装置を研究テーマの一つに掲げているのが、情報理工学部の竹村憲太郎講師だ。総務省の平成24年度「戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)」の採択を受け、この装置の小型化・ポータブル化を目指した研究に取り組んでいる。
「今ある装置は、人間工学や心理学、情報処理などの研究者向けです。それを誰でも気軽に扱えるものにすることで、体が不自由な人はもちろん、人々の生活をより豊かにする道具やサービスが次々と開発されるようになったらうれしいですね」と話す竹村講師。
目の動きだけでコンピュータや家電を操作したり、車の運転中に見落としがちな危険を察知してくれたり……。少しずつではあるが、子どものころ夢見た世界が、現実のものとして私たちの周りに出現してきている。それをより活発化させるためにも、視線計測装置の小型化・ポータブル化は欠かせないと、竹村講師は考えているのだ。
小型カメラ1台で視線計測が可能に
ちなみに既存の装置は、眼球カメラ2台と環境カメラの計3台がついた“大きな眼鏡”のようなもの。携帯電話の赤外線通信や家電リモコンに用いられる近赤外線を眼球に照射し、眼球カメラで撮影した眼球像から瞳孔の中心と光の反射位置を算出して視線方向を推定。それを環境カメラ上に反映させることで、“どこを”見ているのか計測する。しかし複数のカメラを使用するため、長時間の利用によるズレや、それを是正するための調整も欠かせない。また、どこの“何を”見ているのかまで知るのは難しい。「カメラの台数を減らすことで、誰でも負担なく長時間の計測ができる装置にしたいと考えた結果、角膜の表面に映る画像を利用することを思いつきました」
あなたの瞳に私の顔が映っている―。恋人同士なら頬を高揚させてうっとりするシーンだが、竹村講師はこれを自身の研究に応用。角膜表面に映る画像情報を読み取ることで、“どこで何を”見ているのか、小型カメラ1台だけで計測できる装置の開発を進めている。これなら眼球への近赤外線の照射も不要。角膜はドーム型のため映っている画像に歪みが生じているが、数式を用いてコンピュータで自動修正することで問題をクリア。「大きな眼鏡」だった装置が、「眼鏡につける小さな機械」になる時代が、すぐそこまで来ている。
測ることで見えるものがある
もともとは移動ロボットに興味があったという竹村講師。現在は視線計測装置に加え、アクティブ骨導音センシングと移動ロボット、計3つを研究の大きな柱に据えている。このうちアクティブ骨導音センシングは体に伝達する音(振動)を利用して、関節の角度を推定するもの。また移動ロボットは、自分の位置を測定できるセンサを搭載したロボットを使い、さまざまなロボットが共通して利用できる地図を作成。それを使った移動ロボットによる生活支援の実現を目指している。
「僕の専門はセンシング(計測)。人の視線を測ることも、ロボットを使って地図を作ることも、“センシング”というキーワードで考えれば同じ。これからも新しい研究に積極的にチャレンジしていきたいですね」
(写真)竹村講師が開発に取り組んでいる視線計測装置。「近赤外線の非照射」「キャリブレーションフリー」「注視対象の推定」の3つの問題をクリアすることで、常時装着型として気軽に使える装置を目指している
focus
“楽しい”と“楽”は違う
学生と真剣勝負で研究がしたい
「誰もやっていないような新しいことに取り組むのが好き」と笑う竹村講師。「大学時代、学生自身がやりたいと思った研究を自由にやらせてくれる環境があったから、今がある」と振り返る。
そうはいっても、知識も経験もない学生が自分の力で研究テーマを考えるのは至難の業。「やるしかない」と思い定め、必死に論文を読み込み、研究に没頭したという。「今取り組んでいる研究が、人々の生活にどのように役立つか? あらためて聞かれると、実ははっきりとしたことはわかりません。でも、何か役に立ちそうな感覚はある。だからこそ、研究を続ける意義があるのではないでしょうか。すでにゴールが見えているのなら、研究者が取り組む必要はないと思います」
学生たちに言いたいのは、「“楽しい”と“楽”は違う」ということ。教員と学生が一緒になって、真剣勝負をするつもりで研究に取り組む――そんな研究室をつくりたいと考えている。
たけむら・けんたろう 1978年北海道生まれ。芝浦工業大学工学部卒業。奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科情報システム学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。同大学院大学助教、アメリカ・カーネギーメロン大学ロボット工学研究所客員研究員などを経て、2013年度から現職。
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