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特集

2012/06/01
研究室おじゃまします!
各分野の最先端で活躍する東海大学の先生方の研究内容をはじめ、研究者の道を志したきっかけや私生活まで、その素顔を紹介します。

金環日食はなぜ起きる?

400倍の偶然が生み出す神秘
総合教育センター 比田井昌英教授

3年前の皆既日食に続き、全国的に観測熱が高まった5月21日の金環日食。空に輝く太陽のリングを見て、宇宙への関心を深めた人も多いはず。そこで今回は特別編として、金環日食の仕組みとこれから日本で見られる天体ショーについて、総合教育センターの比田井昌英教授に聞いた。

「日食」とは月が太陽の前を横切るために、太陽の一部または全部が隠されてしまう現象。一部が隠れるのが部分日食で、完全に隠れるのが皆既日食。月が太陽を隠しきれず、その周りから太陽がはみ出して見えるのが金環日食だ。

月の400倍もある太陽が、なぜ小さな月に隠されてしまうのか? それは地球から太陽までの距離が、地球と月の距離の400倍前後だから。この400倍という数値の一致により、はるか彼方にある太陽の視直径(見かけの大きさ)が月のそれとほぼ同じになり、皆既日食や金環日食となる。「でもこれは全くの偶然。太陽と月の大きさが変わらなくても、月は年に約3㌢ずつ地球から遠ざかっているため、皆既日食はやがて見られなくなります」と比田井教授。とはいえ、それは6億年ぐらい後のこと。それでも何十億年という宇宙的な時間で考えれば、今を生きる私たちしか見られない貴重な天体ショーなのだ。

※上イラスト=日食や月食が起きるのは、太陽と月が太陽の軌道(黄道)と月の軌道(白道)の交点付近にあるときに限られる。これを「食の季節」といい、通常年2回ある。月の軌道は楕円形のため、地球の中心に最も近い「近地点」と最も離れた「遠地点」ができる。この微妙な差により、月が太陽より若干大きく見えたり小さく見えたりする。近地点の付近で皆既日食、遠地点の付近で金環日食となる

金環日食を利用して太陽の大きさを知る
神秘的な天体ショーとして楽しむだけでなく、金環日食を利用して太陽の正確な大きさを測ることもできる。太陽はガスの塊のため輪郭がはっきりとわからず、どこを測るのかによって大きさが変わってくる。

そこで注目されるのが、月と太陽の縁が重なる瞬間、月のクレーターの間から光の粒が見られる「ベイリー・ビーズ」と呼ばれる現象。月周回衛星「かぐや」によって、月の大きさや表面の状態が判明していることから、ベイリー・ビーズがいつ、どこで、どのように見られたのかの正確な情報を集めることで可視光で見える太陽の輪郭や半径が割り出せる。実際、21日の金環日食当日には、このベイリー・ビーズを観測する全国的な調査が行われた。

このほか、食(太陽が欠ける程度)の時間経過と月までの距離から月の公転運動の様子を実感したり、離れた地点で同時観測し、三角測量の原理を使って月までの距離を導き出すことも可能だ。

太陽や月だけでなく惑星も見てみよう

「堅苦しく考える必要はありません。たとえば、観測時に直接太陽を見てはいけないのはなぜか、という疑問を持つ。そこから太陽の持つ莫大(ばくだい)なエネルギーに思いを巡らせ、太陽光発電やソーラーカーへの興味に発展させることもできます。今回の日食観測を一つのきっかけに、身の回りにある自然や学びへの興味を深めてほしい」

6月6日の金星の日面通過=pick up(下記)参照=に続き、7月15日に木星食、8月14日には金星食もある。2012年はまさに天体ショーの当たり年だ。まずは気軽に空を見上げてみる。そして、その奥にある〝なぜ?〞を考えてみよう。

pick up これを見逃すと次は105年後!! 
6月6日に「金星の日面通過」


6月6日に日本各地で、太陽の表面を金星が東から西へと移動する「金星の日面通過」が観測できる。太陽―金星―地球が一直線上に並び、太陽の一部が金星によって隠されるという点では日食と似た現象。観測できるのは2004年6月8日以来8年ぶりだが、今回見逃せば次は105年後という貴重な天体ショーだ。午前7時10分ごろから6時間以上続くため、観測チャンスは十分にある。

ただし金星の視直径は太陽の約30分の1と非常に小さいため、見た目は黒いホクロのよう。日食グラスを通して肉眼で観測するのは、ちょっと難しいかもしれないが、ぜひ挑戦してみて!

「天体望遠鏡がなくても、ピンホールや双眼鏡を使って白い紙に太陽像を大きく投影させれば十分に観測できます」と比田井教授。投影中はくれぐれもファインダーを直接のぞかないように注意を。

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ひだい・まさひで 1947年長野県生まれ。静岡大学理学部物理学科卒業。東京大学大学院理学系研究科天文学専攻修了。理学博士。専門分野は天体物理学。

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