悔しさと手応えを糧に
再び世界の頂を目指す太陽光の力だけを使い、荒野を駆け抜ける―。10月6日から13日までオーストラリアで開催された「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ」(WSC)でチャレンジセンター「ライトパワープロジェクト」ソーラーカーチームが準優勝した。目標としていた大会3連覇こそ逃したが、出場チームの大半が途中リタイアする過酷なレースで世界と渡り合った。学生たちの挑戦を追った。
「負けた分だけ反省できる。この経験をプラスにして、生かさないと」。
過去にも優勝を争ってきたライバル、オランダ「Nuon Solar Team」に続いて、レースの順位が確定するフィニッシュ計測点に到着した東海大学チーム。チームマネジャー(学生リーダー)としてチームを率いてきた大久保亮佑さん(工学部3年)は、涙をにじませながら強く言いきった。
未経験の厳しいレース、一方で学生の成長も
大会2連覇、さらに08年から隔年で開催されている南アフリカ大会での3連覇。08年度以来、国際大会負けなしの5連覇を飾ってきたチームにとって、今大会は経験のない状況が次々と襲う、厳しいレースとなった。予選での出遅れ、本戦では、一気に2位まで浮上するもライバルNuonとの差がなかなか縮まらず。ゴール寸前には悪天候に見舞われ、途中停車の悔しさも味わった。
チーム監督の木村英樹教授(工学部)は、「我々は当然優勝を狙っていただけに残念」というが、一方で、「日本勢では我々のみが完走、全体でも半数以上がリタイアする過酷なレースを、チーム一丸で戦いきったことを評価したい」と成果も実感している。副監督の福田紘大講師(同)も、「さまざまな苦労を力を合わせて乗り越える、その中でそれぞれが自分の役割を把握し、仕事を的確にできるようになっていった」と手応えを語る。
逆境をバネに団結と集中、自分たちの役割を全う
レース開幕前は、大久保さんが「手が空いたら自分のできることを見つけないと。もっと周りの動きに気を配ろう」と呼びかける場面もあった。チームにはこれまでの国際大会経験者や特別アドバイザーの社会人もいる。「誰かがやってくれる」――学生たちの中にそんな空気があったのも事実だ。
しかし、厳しいレースに挑むうちに、チームには結束が生まれ、自分たちの役割を全うしようという雰囲気が生まれていた。マシンの走行中はひっきりなしに無線で連絡をとり合い、自分たちの役割を把握し、任務を遂行する。コントロールポイントでの停車時には皆が率先して作業に走り、大きな声で指示を飛ばす。マシンに直接かかわることのないメンバーたちも、レースを滞りなく進めようと必死に自らの役割に取り組んでいた。
学生たちからは、「毎日が緊張の連続。自分のできることをやりきりたい」(榊原聖也さん・工学部2年)と集中力を感じさせる声が多く聞かれるようになっていた。
自ら考え、意識を上げる。課題を見据えて前へ
「世界一のチームであるためには、もっと“自分で考える力”が必要」と話すのは09年の大会以来、ドライバーを務めてきた伊藤樹さん(大学院工学研究科2年)。指令車で全体のマネジメントにあたった関川陽さん(同1年)は、「技術力も精神力もまだまだ足りない。意識を変えていかないと」と、学生たちはそれぞれに課題を感じている。木村監督は「すぐにこの結果を分析し、対抗し得るマシンの開発と、チーム体制の強化を図っていく」と今後の展望を語る。
現行の体制になって初めての1敗――、しかしその中で得た体験が意欲につながり、マシンを前に進める原動力となる。「次は絶対に負けない。この経験は無駄にはしません」と大久保さん。学生たちはすでに次のレースを見据えている。
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「世界最高峰の舞台で大健闘」 (写真上から)
▽パナソニック製の「HIT太陽電池」や東レ製の炭素繊維「トレカ」を用いて、学生の手で製作された2013年型「Tokai Challenger」。4輪化を受けて、空力や太陽光発電パネルの効率を考慮し、コックピットが左側に寄せられた「カタマラン型」と呼ばれるデザインとなった
▽チームでは機械班や電気班、メディア班など役割を分担しているが、学生たちは、「やっぱりマシンがいちばん大事」と充電の際には誰もがいち早くマシンのもとへと駆けつけて作業にあたった
▽計測点ゴールでは、敗れた悔しさと同時に、完走を果たしたうれしさにも包まれた。「サポートしていただいた企業や関係者の皆さんのおかげ」(中澤清乃さん・工学部2年)という安堵と、「さまざまな苦難を、皆の力で乗り越えてきた」(大久保さん)という達成感の表れだった
▽表彰式で完走を喜ぶ
2013WSC 東海大チームPlayBack■
9月21日~10月5日(メルボルン~ダーウィン)先行してマシンを輸送するメンバーが9月21日にメルボルンに入り、本戦のコースを逆走しコースを下見した。27日には本隊がダーウィンに合流し、整備にあたる。公式車検を問題なくクリアし、練習走行を重ねて臨んだ5日のヒドゥンバレーサーキットでの予選では、出走が最終盤となった影響で、コース上にたまった砂にタイヤをとられてスピン。2分46秒71で、出走25台中20位と不本意な結果に。
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6日(ダーウィン~キャサリン~ダンマラ)20番目スタートと最後方からの追い上げとなったが、ダーウィン市街地から先行チームを次々と抜き去り、キャサリンでは一気に4位に浮上。その後もすぐに前を行くアメリカ・スタンフォード大学を追い抜き、3位でダンマラへと到着した。
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7日( ダンマラ~テナントクリーク~ティーツリー~1347㌔地点)ダンマラのスタートで手間どったオランダ「Solar Team Twente」を抜き、早々に2位に上がりレースを進める。先行するオランダ「Nuon Solar Team」との差はテナントクリークで13分。ティーツリーでは6分と徐々に差を縮めた。
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8日( 1347㌔地点~アリススプリングス~カルゲラ~2086㌔地点)この日もNuonの背中を追う。アリススプリングスで13分差、カルゲラで20分差と離される。キャンプ地点では最高速度を上げるため、深夜遅くまでモーターの改造に取り組んだ。
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9日( 2086㌔地点~クーパーぺディ~グレンダンボ~ポートオーガスタ~2808㌔地点)ペースを上げる東海大の動きを察知したNuonも加速し、差が縮まらない。さらにグレンダンボを通過後は横風が強まり、負荷のかかった左前輪がパンク。素早い交換で復帰するも、右前輪もポートオーガスタ通過直後に交換を余儀なくされる。それでも学生たちは、「最後まであきらめない」と前を向いた。
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10日(2808㌔地点~フィニッシュ計測点=2998㌔地点)朝のミーティングで「絶対に逆転しよう」と誓い合うも、曇天、雨天、強い向かい風がTokai Challengerの行く手を阻む。バッテリーが減少し、走行開始から約2時間後には充電のため停車。実質的なゴール地点となるフィニッシュ計測点にNuonが先着する。その後、わずかにエネルギーを回復した東海大も3時間19分遅れでゴール。悔しさと同時に、無事に完走を果たしたうれしさにも包まれた。
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11日~13日(計測点~アデレード/表彰式)11日午前中にアデレード市内のセレモニーゴールへと到着。Nuonのメンバーらの出迎えを受け、共にプールに飛び込み健闘をたたえ合った。表彰式当日の13日には、今回初めて行われた市内のパレードにも参加。表彰式では準優勝のトロフィーが贈られ、大久保さんが「素晴らしい大会が今後も続くことを祈っています」とスピーチ。会場から盛大な拍手がメンバーへと降り注いだ。
※レースの詳細レポートはワールド・ソーラー・チャレンジ特設サイト
http://www.u-tokai.ac.jp/WSC2013/report.htmlを参照
Key Word ワールド・ソーラー・チャレンジ
オーストラリアのダーウィンからアデレードまで3012㌔の走行タイムを競う。1987年に始まり、26年の歴史を持つ大会。コース各地に9カ所のコントロールポイントが設けられ、ここで30分の義務停車が科せられる。各チームは野営しながらゴールを目指す。今大会では、マシンの規格別に3部門が実施された。東海大も参加し、大会のメーンとなるチャレンジャークラスでは、ソーラーカーの将来的な実用化などを見据え、タイヤの本数がこれまでの3輪から4輪に義務化されたほか、マシンの全長が5㍍から4・5㍍に制限、コックピットの大型化が課されるなどレギュレーションが大幅に変更された。