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特集

2013/12/01
教育の現場から
話題の授業や地域・企業と連携した課外活動など、東海大学の特色ある教育現場に迫ります。

パピルス文書に関する国際プロジェクト

文化財保護の先進的取り組み
学生を修復師として養成


古代エジプトの歴史的遺物をよみがえらせる─。東海大学が収蔵するパピルス文書を、3年計画で修復保存・解読・出版を目指す国際プロジェクトが今年度から始動している。その第1弾「古代エジプト パピルス文書修復ワークショップ」が、11月1日から21日まで湘南校舎で実施された。

パピルスはナイル川流域に自生する水草のこと。古代エジプトではその茎でパピルス紙を作り、紀元前2500年ごろから筆写材料として用いられた。よく知られている『死者の書』などにも使用されているが、耐久性に乏しく湿度に弱いために失われたものも多い。これまで、日本でまとまった量が見つかることはなかった。

しかし、2010年にエジプト考古学の研究者であった故鈴木八司名誉教授の遺族から東海大に寄贈されたコレクション=キーワード参照=の中から400片にのぼるパピルス文書が見つかった。当初は本物なのかさえわからなかったが、海外の専門家による鑑定で、世界でも希少な古代エジプトの末期王朝時代初期のものが多いと判明。その重要性が国際的にも注目された。

「専門家からの早急な保存処理の求めと、教育的価値を踏まえ、学生を修復師として養成しようと考えました」と研究代表の北條芳隆教授(文学部歴史学科)は振り返る。この取り組みは「東海大学所蔵古代エジプト・パピルス文書の修復保存・解読・出版に関わる国際プロジェクト」として、東海大学総合研究機構のプロジェクト研究に採択。工学部や情報技術センターと技術面で連携し、東京大学史料編纂所や国際的な研究協力体制も整えた。修復保存作業を進め、文書の解読・出版へとつなげる計画だ。

歴史的遺物に触れ、緊張しつつ、修復開始
11月1日から始まった「古代エジプト パピルス文書修復ワークショップ」。ドイツのべルリン博物館から世界でも著名なパピルス修復師ミリアム・クルシュ氏を招き、修復保存の技術習得を目指した。文学部アジア文明学科の山花京子准教授が運営を担当し、修復に携わる学生を募集。志望動機などの審査を経て12人が選出された。

初日はクルシュ氏が、材質や状態を確認することで時代や場所を推測できることなど、修復に必要な知識を説明。現代に作られたパピルス紙を使い、計測や色を判断する練習も行った。3日目からは、いよいよ歴史的遺物の修復作業を開始。「貴重な文化財を直接触っていいのだろうかと、最初は緊張感でいっぱいだった」と貴島紗代子さん(文学部3年)は振り返る。

鈴木コレクションの遺物は出土地も出土状況も明らかではない。状態もそれぞれ違うため、対象を見ながら判断し、対処する必要がある。学生たちは12日間かけて、クルシュ氏が40年のキャリアで培った技や知識を吸収した。

修復師としての自覚、技術を伝える責任

パピルス文書を修復する目的は2つ。文字が判読できるよう汚れを落とすこと、恒久的に保存できるよう繊維の固定と強化を行うことだ。形を写し取り、専用の用紙に損傷など約60項目を記入。湿らせた後、崩れている部分を整えて、糊料で固定、強化した。「作業が進むにつれて受け身だった学生に〝担当したものについては責任がある〞という自覚が芽生え始めた」と山花准教授。若干の指示を与えられると自分で判断できる学生も多くなった。 
 
「簡単に見える作業も、やってみると難しい。でも、自分の仕事が後世に残ると思うと頑張れた。ほかではできない体験」と田中大地さん(教養学部3年)。貴島さんは、「修復に迷ったときに道しるべとなるような資料を作りたい。私たちが伝えていかないと、この技術は日本から消滅してしまう」と決意を語る。

すべての日程を終え、全員が1枚以上の修復保存を完了した。今後は学びを分かち合い、研鑽を積んで、技術や知識を後輩につなげていく必要がある。山花准教授は、「新しい学生を募りながら、学部や大学、国をこえた連携の中で、さらに価値あるものにしていきたい」と展望を語る。

来年の8月にはパピルス修復保存センターを有するアメリカのミシガン大学で研修に参加、最終年度は国際シンポジウム開催を予定している。歴史的遺物の修復保存・解読への歩みは始まったばかりだ。

 
力を見極め、無理せずやれることを
ミリアム・クルシュ氏


日本に未発見のパピルス文書が存在すると知り、大変興味を持ちました。新しい知識を与えることで若者の可能性が花開けばと、プロジェクトにかかわりました。修復にはそのパピルス文書の状態を細かく記録する必要がありますが、記入方法に疑問を持ち、改善点を指摘した学生がいました。世界中でワークショップを行っていますが、そんなことは初めて。日本人の感性は繊細で鋭く、教えることは学ぶことでもあると感じました。

学生たちは完璧に仕上げたいと思うかもしれませんが、それは間違いです。自らの力を見極め、無理をせず、できるところまでをやればいい。知識を蓄えれば、未来にはもっとできる自分がいることを胸に刻んでほしいです。


 
(写真上より)
▽どんなに細かな作業も妥協を許さず、丁寧に説明するクルシュ氏。学生たちはその知識や技を見逃すまいと、じっと見つめる 
▽拡大鏡を見ながら筆とピンセットでパピルスの折れた繊維を1本ずつ元に戻す。慎重にゆっくりと仕上げていく
▽学生が修復したパピルス文書。形を写し取り、各部分の損傷などを細かく記入。文字が判読できるよう、汚れを落とし、繊維を整えて固定した
▽パピルスの前でほほえむクルシュ氏
Key Word 鈴木八司コレクション
2010年に故鈴木八司名誉教授の遺族から東海大学に寄贈された古代エジプトおよび中近東の考古学資料(パピルス・土器・織物など)約5000点や写真資料約1万5000点。大学の資産としてデータベースを作るため、13年から文学部の学生ボランティアらが中心となって整理作業を進めている。質、量ともに日本有数のもので、貴重な情報源であるため、早稲田大学や鶴見大学などからもボランティアで学生が参加している。

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