特集:教育の現場から
2011年3月1日号
工学部原子力工学科に新たなプログラム
企業らのサポートを受けて、原子力マイスターを育てる

工学部原子力工学科で昨年10月から、「原子力マイスター育成のための実務と教育のブリッジプログラム」が実施されている。発電所などの原子力産業の現場で中核的人材となる高度技術者(原子力マイスター)の育成をサポートするもの。文部科学省と経済産業省が進めている平成22年度「原子力人材育成プログラム」の採択を受けて始まった。

1956年に日本初の原子力工学分野の学科を開設以来、東海大学では半世紀に及ぶ原子力教育に力を注いできた。今年度、エネルギー工学科から名称を変更して原子力工学科となり、「原子力」により特化した教育をスタートさせている。

その一環で始まった「原子力マイスター育成のための実務と教育のブリッジプログラム」は、現場で活躍する技術者による講演や企業から出された課題の解決を通して、原子力分野への学びに対する学生の意欲向上を図ることなどが目的。原子力関連企業などの協力を得て実施されている。対象は原子力工学科の1年生とエネルギー工学科の3年生で、今年度は1年生約40人と3年生の希望者が受講した。

必修科目「入門ゼミナール2」として開講している1年生対象のプログラムでは、原子力関連企業で活躍する卒業生らによる講演会を実施。原子力業界への理解を深めるとともに、国家資格の放射線取扱主任者試験への合格などを目指す「原子力技術コース」の受講を促す。同じく必修科目「総合研究2」として開講される3年生向けでは、各企業から出される課題に挑戦。実務で必要となる問題解決能力などを養う。同学科主任の大江俊昭教授は、「学生自身が将来に向けた明確な目標を養い、より積極的に学ぶ土台を作ることが目的」と語る。

技術者による講義で学びの指針を得る
1年生対象の「入門ゼミナール2」で、昨年10月から1月にかけて行われた講演会では、発電、放射線管理、保守点検、サイクルの4分野について卒業生などが講義を行った。受講にあたって学生は、各企業の業務内容や将来業務を担うために受講すべき大学の講義を調べて「スキルノート」を作成。5人ほどのグループで議論した上で講演会本番に臨んだ。

保守点検をテーマに行われた11月15日の講演会では、蟲浜コーポレーションの工事本部長が登壇。発電所では検査でわずかでも異常が見つかれば部品を丸ごと交換しなければならないことなど、現場の仕事を具体的に紹介。放射線を扱う企業では定期的に講習を受けるなど常に学び続けることが求められるため、「在学中に自ら学ぶ姿勢を身につけておくことが大切」とアドバイスした。受講した北田哲仁さんは、「企業で必要となる知識や技能の一端を知ることができました。在学中に取得すべき資格なども明確になった」と語る。

終了後には講演会の内容を「スキルノート」にまとめ、翌週のゼミナールで事前調査との違いなどについて議論。互いの意見などを共有し、原子力分野についての理解をさらに深めた。

実務的な課題を解き、分析力などを養う
「総合研究2」では、プログラムの一環として3年生が、企業から出された実務的な課題に挑戦。大江教授のゼミでは倉田祐次さんら4人が、ウラン濃縮や低レベル放射性廃棄物埋設事業などを展開している日本原燃蠅ら出された、使用済み燃料の計量管理に関する課題に取り組んだ。レポート作成後には同社で結果を報告するとあって、学生からは「一つも妥協できない厳しい課題だが、やりがいも大きい」(倉田さん)との声も。

学生は1月下旬から情報の収集や分析方法について、大江教授の指導を受けつつ企業への報告内容を検討。教科書やインターネットを使いながら自宅でも考え、成果を持ち寄って議論を重ねていった。比留川淳さんは、「試行錯誤を重ねることで基礎知識を再確認するとともに、学ぶことへの意欲も高まった」と語る。3月には青森県六ヶ所村にある日本原燃蠅鯔問。皆で導き出した結果を発表する。「原子力を学ぶ学生として恥ずかしくない報告をすることはもちろん、この分野を担う技能を磨けるよう、今後もしっかり学んでいきたい」と、意気込んでいた。


高い意欲を持って学んでほしい
工学部原子力工学科 大江俊昭 教授

「明確な将来像と意欲を持って大学生活を送ってもらいたい」。このプログラムは、私たち教員の強い思いから始まりました。学生は卒業後、大学で習得した知識や技能を生かしつつ、自らの力で社会の荒波を乗り越えていかなければなりません。先行き不透明な現代。社会人の基礎となるべきスキルを身につけるためには、在学中に意欲的に学ぶことがこれまで以上に重要になると考えるからです。

国内の電力量の約30%を原子力発電が着実にまかなっており、世界的にも原子力への期待は高まっています。これに加え、医療や工業への放射線技術の活用も活発になっています。そのため安全な利用を担う、高度な専門知識を持った技術者に対する需要が高まっているのです。その一方で、日本の大学には原子力を専攻とする学科が極めて少ないため、各地の発電所などでは技術者の高齢化による慢性的な人材不足という事態が起きています。

原子力工学科はこうした状況に立ち向かい、新たな地平を開くことのできる技術者の養成を目指して2010年4月に新しいスタートを切りました。「原子力マイスター」を数多く輩出できるよう、今後もよりよい教育システムを模索していきたいと考えています。

 
(写真上)講演会では、学生が実務での経験などについて熱心に質問していた
(写真下)大江教授のゼミで指導を受ける学生たち。「実務についての理解を深めることで、就職活動にも生かせる」と話していた
Key Word 原子力人材育成プログラム
大学や高等専門学校における原子力分野を担う人材育成の充実を図ることを目的に、2007年度から文部科学省と経済産業省が連携して策定した公募事業。東海大学は同年から毎年採択を受けており、07年から09年まで採択を受けた「原子力系技術者育成のための放射線取扱研修プログラム」では、第3者による事業成果評価でA評価を得るなどの実績を挙げている。