特集:教育の現場から
2020年6月1日号
全学で遠隔授業始まる
【新型コロナ感染拡大防止に向け】
各学部学科で独自の取り組み


新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、東海大学では春学期の授業について主にインターネットを活用したオンラインで行うことを4月3日に決定。5月11日から全学で実際の授業が開始された。工学部や海洋学部、情報通信学部、教養学部国際学科で大学史上初 の試みとなる遠隔授業の様子を追った。

【工学部】学生との連絡網を確立
学科に応じた方式で開講

湘南校舎の工学部では、遠隔授業開始に向け各学科の教員と学生間の連絡網を確立。学生の 通信環境も調査し、全員が授業を受けられることを確認した。講義科目は遠隔で開講し、実験・実習科目は、春学期中に手順や理論を講義し、夏季休暇以降、入構可能になってから行うことで単位を取れるようにする方針も定めた。

大山龍一郎学部長は、「全学生が授業を受けられることが何よりも大切。14学科専攻ある本学部では、これまでも各分野の特徴に合わせた授業を開講してきたため、学科ごとに授業の方法などを検討しました」と話す。

各学科では4月上旬から、教員が手分けして学生や保護者に連絡。携帯電話やメッセージアプリ「LINE」、グループウェア「Teams」を利用して、複数経路での連絡網を作成するとともに、履修登録方法や受講方法を指導し、オンラインでガイダンスも開くなど学生が確実に授業を履修できるよう準備を進めた。

一方で、教員有志が各 ツールを使った授業の進め方に関する勉強会も実施している。内田ヘルムート貴大講師は、「他大学の実践例も収集しながら、1つのツールでトラブルがあった場合にほかの方法で授業できるようバックアップも考えた」と語る。

5月11日の授業開始直後には、ツールの使い方がわからなかったり、通信が不安定になったりして受講できない学生も出たが、5月中旬以降は順調に開講できているという。同学部の教員からは、「学生の相談も授業の内容や生活面に関するものに変わってきている」との声が聞かれた。

受講生の目線に合わせ習熟度アップを図る

授業は各教員が学年や受講生数も考慮して設計。資料と講義の音声を組み合わせた教材を Teamsや大学の授業支援システムで視聴するオンデマンド方式、開講時限にWEBビデオ会議システム「Zoom」で講義するリアルタイム方式など多様な形で開講されている。

多くの学科では大学の授業に慣れていない1年生向けのものは、できる限り開講時限に学生全員が参加できる方法で行うことを決定。「入門ゼミナール」では、少人数のグループで交流する機会もつくるよう工夫している。

一方、約170人が受講する動力機械工学科の「熱力学」では、動画配信とチャットを組み合わせて授業を展開。冒頭に教員が前回の授業での質問に回答し、当日の進め方を説明したのち、事前に録画した動画を配信する。学生たちはTeamsにアップされた教材で学び、別の教員が学生からの質問にチャットで答えている。

また材料科学科2年生対象の「接合科学」は、リアルタイムで実施。授業後には録画データをグループウェアで共有し、復習につながるよう工夫している。

大学院生からは研究再開を願う声も

一方、各研究室のゼミでは、 Zoomなどを活用。学生が調べてきた内容を発表し、教員や他の学生がコメントする形で行われている。

学生たちは、「最初はちゃんと授業が受けられるのか不安もあったけれど、始まってみたら予想以上にスムーズだった」「遠隔授業では、グループで互いに教え合いながら学べないデメリットがある反面、授業後に録画したデータを再度聞き直せるのがいい。通学時間を自分の勉強にあてられるのもメリットだと思う」「自分のペースで学べる反面、気を抜くと課題をこなすだけになりがち。教室で授業を受けるときよりも集中力が必要になる」と話している。その一方で大学院生からは、「自分の研究を深めたくて大学院に進学したのに、入構禁止で全く実験が進まないのがつらい。一日も早く研究を再開したい」という切実な声も聞かれた。

(写真上から)
▼動力機械工学科の「入門ゼミナール」では、1年生が大学での学習スタイルに慣れていないことを考慮してリアルタイムで実施。
▼「熱力学」では、授業概要説明と講義、質問対応を3人の教員が研究室や自宅などで分担している
▼材料科学科の「接合科学」は、授業をリアルタイムで行ったのち、録音データを動画共有アプリ「Stream」にアップ。学生が自由に復習に活用できる
▼応用化学科の「物理学概論」 は、多様な通信環境に対応するためオンデマンドで実施。授業時間中には、LINEやメールで学生からの質問に対応
 
【海洋学部】WG立ち上げ学習環境を考慮
課題配信型で“学生に届く授業”を

清水校舎の海洋学部は春学期が遠隔授業になると決まってすぐに、「清水校舎新型コロナ対 策本部遠隔授業ワーキンググループ」(WG)を発足させた。学生のネットワーク環境を調査し、課題を配信する「メッセージ型」「オンデマンド型」を中心に、“学生に届く授業”に取り組んでいる。

「どんなに工夫を凝らした授業をしても、学生に届かなければ意味がありません。まずは学習環境を調べることから始めました」とWGの川崎一平副学部長は話す。4月22日から5月8日まで海洋学部の全学生(大学院生等含む)2202人にアンケートを実施し、727人分の回答を得た。受講場所は保護者宅と一人暮らし宅が半々、96%がパソコンやタブレット端末を持っていることがわかったが、WGが算出した「1カ月あたり必要な通信容50GB」をクリアする学生は7割に満たなかった。「アパートのネットは共有回線であり、混雑が予想される」「回線速度が遅いので、ついていけるか不安」といった声も寄せられた。

WGの齋藤寛学部長補佐は、「リアルタイムの動画配信やWEBビデオ会議システム『Zoom』を使った通信量がかさむ双方向のやりとりは極力控え、メールで教材と課題を配信する『メッセージ型』と、東海大学の『授業支援システム』(LMS)やグループウェア『Teams』などにアップされた教材や動画を見ながら課題に取り組む『オンデマンド型』を中心に運用することにしました」と説明する。

実習もオンラインで秋以降につなげる
海洋学部は実習や実験を伴う授業も多い。春学期は実験の方法を学び、秋以降に実際に手を動かす形に移行した授業もあれば、開講を秋以降に延期した授業もある。

そんな中、オンラインで形を変えて開講しているのが「海洋実習」だ。本来は夏季休暇中に海洋調査研修船「望星丸」(国際総トン数=2174トン)を使って、「海洋実習1」は1泊2日、「同2」 は2泊3日で行う。学生は集団生活をしながら水温や塩分濃度を測定したり、航海機器の利用法を学んだり、寄港地で工場などを見学して学んだことをまとめてプレゼンテーションしたりする場が設けられてきた。

齋藤学部長補佐は、「行動計画を練り、工場のホームページを見て資料を作ってプレゼンし合うなど内容を工夫している」と話す。川崎副学部長は、「実習や実験は失敗から学ぶことが多い。まずは知識を身につけ、秋以降に実際に手を動かして実習・実験できる機会をつくりたい」と語った。

海洋文明学科など文系の学科は、「絶対的な正解があるわけではなく、学生が知識を寄せ集めて考える授業が多い」と川崎副学部長。「チャットなどで文字にすることで、意見交換や情報交換はより活発にできている」という。

齋藤学部長補佐は、「動画だと自分のペースで勉強でき、わからないところは繰り返し見ることができる。中には同じ動画を5、6回再生している学生もいますから、今の学生に合っているように感じています。また、大教室で大人数が受講する授業も、教員が話している動画を配信するオンデマンド型にすることで、学生は教員が自分自身に話しかけてくれているように感じ、集中力は高まっているのでは」と語る。

孤立感を解消するため学生との意思疎通深める
一方、WGでは学生の不安や孤立感を解消するため、準備段階から意思疎通に力を入れてきた。「海洋学部生は全国から集まっているので、キャンパス周辺で一人暮らしをしている学生も多い。 特に1年生は周りに知り合いがおらず、感染拡大防止の観点から実家にも帰れずに不安を感じているという声も聞きます。中にはSNSでネットワークを広げている学生もいますが、大学としての支援も必要でしょう」

そこで、特に1年生には指導教員が電話などで連絡し、LMSやキャンパスライフエンジンの使い方から指導するなど細やかなフォローを心がけてきた。「遠隔授業での学びはネット環境に強く影響を受けます。ときにはネット以外の手段で学生と意思疎通を図り、ラポール(信頼関係)を形成していくことが必要です。WGでは毎月、点検項目を設定して学生本人や保護者との連絡を密にとっていく計画です」

Monitor's Voice 加藤遼一さん(海洋学部4年)

私の履修科目はすべてオンデマンド型で講義が進行します。通学時間がなく、周りの目や環境も気にせず勉強でき、期限までに課題を提出できれば好きな時間に学習できるメリットがあります。

一方で、在宅で自習をしているのと同じ雰囲気なので、高等教育を受けている感覚が少ないのが残念です。キャンパスに入れないことから図書館で参考文献や関連資料を読むことができず、知識の探求も困難だと感じています。デメリットの部分を改善していければ、よりよい授業になると思います。

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