特集:教育の現場から
2011年9月1日号
夏休みこどもテレビ局
3.11生活復興支援プロジェクト
大学での経験生かし番組制作 子どもの“伝えたい”を形に

チャレンジセンター「3・11生活復興支援プロジェクト」のライフメディアチームが、8月5日から10日まで、岩手県大船渡市で「夏休みこどもテレビ局プロジェクト」を実施した。大船渡市教育委員会の「子どもたちの目線で映像を記録できないか」という声をきっかけに、学生が話し合いを進め、日本ユニセフ協会や地域の人々の協力を得て実現した。5月に応急住宅チームが建設した応急公民館「どんぐりハウス」( 越喜来泊〔おきらいとまり〕地区)を拠点に、現地の小中学生10人と38分のテレビ番組を制作。10日に同ハウスで、保護者や地域の人々を対象にした上映会を行った。

大学での学びを生かし、被災地に笑顔を―─。チャレンジセンター「3.11生活復興支援プロジェクト」のライフメディアチームが実施した「夏休みこどもテレビ局プロジェクト」。“子どもたちの今を伝えること”をテーマに、現地の小中学生と番組制作に取り組んだ。6日間の活動は、学生にとっても普段の学びを深める貴重な経験となった。

「東日本大震災の被害を目の当たりにして、自分たちにできることは何かとずっと考えていました。一緒に番組を作り、子どもたちに楽しんでもらう。番組を見た人も笑顔になれれば、それも一つの支援になるのではないかと思った」とリーダーの柏原有輝さん(3年)は言う。文学部広報メディア学科でテレビ番組制作を学ぶ学生8人は、同心理・社会学科の宮森孝史教授に「被災した子どもとの接し方」についての事前講義を受けるなど、できる限りの準備をして8月4日に現地入りした。

自由な視点で撮影
迎えた顔合わせ当日。呼びかけに応じて集まった現地の小学3年生から中学2年生の10人を3班に分け、それぞれ企画会議を行った。「よく遊んだ夏虫山に行く!」「お母さんに話を聞きたい」。子どもの言葉に耳を傾けながら内容を決め、翌日から早速取材に出かけた。「大船渡のいいとこ巡り」と題した小学生班は、夏虫山や大窪山を訪問。もう一つの小学生班は、「お父さんとお母さんにインタビューしました」と題し、自分の名前の由来などを取材した。中学生班は「記憶〜未来へ〜」をテーマに、津波の被害を受けた思い出の地を巡った。山崎洸太さん(4年)は「番組としての体裁を整えたり、メッセージ性を持たせることは僕らが後からすること。子どもたちには自由に企画や取材をしてほしかった」と語る。

細部に光る気遣い
2日間かけて取材してきた映像を、丸1日かけてパソコンで編集。数分のVTRを完成させて、スタジオ収録に臨んだ。古水丈也君(小学3年)と川畑朱子さん(中学2年)がMCを務め、VTRを制作した子どもたちがゲストとして登場。取材秘話を紹介する。

カメラや音響装置などの機材に、子どもたちは興味津々。学生の指導のもとファインダーをのぞき込むと、自然と笑みがこぼれる。撮影が始まると今度はゲストとして“撮られる側”に立ち、「緊張しなかった!」「楽しかった」とますます笑顔を見せていた。だが、子どもたちの集中力はそう長くは続かない。途中で眠そうな顔をする子もいれば、黙り込んでしまう子もいる。

「カット!」の声で撮影を止めるたびに学生が駆け寄り、「言いたいこと言えた?」「飲み物いる?」「あとちょっと頑張ろう!」と声をかける。約3時間かけて、すべてのシーンを撮り終えた。

笑顔あふれた6日間
スタジオで収録した映像と、各班が撮影してきたVTRを1本の番組に編集。10日に応急公民館で行った2度の上映会には、子どもの家族や地域の人々、海外からのボランティアなど、関係者を含む約60人が来場した。

活動を見守った現地の人は、「ここにいるのは津波を目の前に逃げた子ばかり。大切なものを失って傷を負った子どもたちが、この6日間は、今日は何が楽しかったという話ばかりしていた」と喜ぶ。被災地を巡った高橋瀬菜さん(中学2年)は、「復興どころか復旧すらしていない場所がたくさんあるのに、ほとんど報道されない。伝えたいことがたくさんあった。私たちの声を真剣に聞いて一緒に取材に行ってくれて、すごくうれしかった」と話す。川畑さんも「今度は復興した大船渡を一緒に歩きたい」と続けた。

再会を誓って

「最初のうちは子どもたちが何も話してくれず、中には不安で泣き出してしまう子もいて、一体何しに来たんだろうと思った」と柏原さんは振り返る。それでも、丁寧な言葉でゆっくり話し、休憩時間には一緒に遊びながら徐々に距離を縮めた。「心を開いた関係を築けたことは本当によかった」とプロジェクトアドバイザーの五嶋正治准教授(文学部)は語る。

睡眠時間を削って毎晩深夜まで会議や作業を続け、普段なら1カ月以上かけて制作する番組を、わずか6日で作り上げた。「僕らが教えられるのか、楽しんでくれるのかと心配ばかりでした。被害を目の前に中学生や現地の人の声を聞いて、気持ちが折れそうになったこともあった。でも今は、一年中夏休みならいいのにと思うほど、皆ともっと一緒にいたい」(田中俊行さん・3年)。またいつか、一緒に番組を作ろう――。涙ながらに別れを告げ、学生たちは帰路についた。

学生と保護者をつなぐ〜楽しさ伝えた“お便り”〜

広報メディア学科の学生が中心となってテレビやラジオの番組制作を行う「東海大学メディアプロジェクト」で、広報班として活動している鈴木千遥さん(3年)は、現地での広報活動を一手に引き受けた。

「スタジオ通信」と題したニュースリリースなどを作っている経験を生かして、子どもたちの保護者向けのお便りや、地域の人々への上映会のお知らせを制作。「大学生とテレビ番組を作るといっても、どんな人たちと何をしているのか、ご両親が心配するのは当然。少しでも様子を伝えられればと思った」と振り返る。取材やスタジオでの収録中はもちろん、昼食や休憩中に遊んでいる様子などあらゆる姿を写真に収め、その日一日どんなことをしたのかを写真と文章で伝えた。

菊池健太君(小学3年)ら3兄弟の両親は、「家で話すことといえば、今日は何のお弁当を食べたとかばかり。最初のころは“行きたくない”と言ったこともあったので心配はしていました。でも、持ち帰ってくるお便りには笑顔で活動している写真が載っていて、楽しくやっている様子が伝わってきた」と喜んでいた。

【VTR】夏休みこどもテレビ局〜私たちの夏休み〜

小中学生が作る番組を大学生がサポートする――。企画会議から取材、編集、スタジオ収録と、普段なら1カ月以上かかる作業をわずか6日で、それも子どもたち主導で行うことは、学生にとっても挑戦だった。

最初のうちこそ学生がリードしていたものの、撮影に出かけると「もう少し広く撮りたい」など徐々に子ども主体に。撮ってきた映像から番組で使う部分を切り取ってつなげる編集作業では、学生が手を加えたものよりも子どもたち自身が編集したものがいいと発言する姿もあった。

保護者からは、「思った以上に完成度が高くてびっくりした。子どもらしい発想や視点が生きていて面白かった」との声が上がっていた。なお今回のプロジェクトの様子は、テレビ朝日のメディア教育番組「はい!テレビ朝日です」で、9月4日と18日の2回にわたって放送される予定。放送後には同番組のホームページでオンデマンド視聴が可能になる。詳細はhttp://www.tv-asahi.co.jp/hai/を参照。

 
(写真上から)
▽取材、編集、スタジオ収録まで子どもの手で行った
▽最後は笑顔で記念撮影。「また会おう」と口々に話した
▽本格的な機材に触れ笑みがこぼれる