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特集

2012/02/01
教育の現場から
話題の授業や地域・企業と連携した課外活動など、東海大学の特色ある教育現場に迫ります。

東海大学ル・マンプロジェクト

世界最高峰の舞台へ挑んだ日々

工学部動力機械工学科の4年生と大学院工学研究科の大学院生が中心となり、2001年から活動を続けてきた「東海大学ル・マンプロジェクト」。10年にはフランス西部自動車クラブ(ACO)が主催するアジアン・ル・マンシリーズで完走を果たすなど、一定の成果を収めたことから今年度で終了する。1月22日には静岡県の富士スピードウェイで記念の「ラストラン」を開催。300人をこえる保護者や卒業生を前に、11年にわたる活動の成果を報告した。

保護者らを前に学びの成果を報告

「テスト走行で何度も利用してきた思い出の場所で、応援し続けてくれた企業や保護者の方々にこれまでの成果を披露したい」ラストランは、今年度の学生メンバー24人が企画。走行に先立ち、学生と、監督を務める林義正教授(総合科学技術研究所)が、今年度の活動内容や成果を報告した。

学生リーダーの末永充史さん(大学院工学研究科2年)は「これまで活動を続けてこられたのは多くの方の支えがあったから。皆さまに感謝を申し上げます」とあいさつ。「小さなことの積み重ねが大きな成果につながることや、先にある課題や次の工程を意識しながら作業をすることの大切さを学ぶことができた」(伊藤翔さん・4年)、「情報を総合的に判断しながら、仲間と協力することの大切さを実感しました」(熊谷圭太郎さん・大学院工学研究科1年)と、成果を報告した。



午後に行われたラストランでは、昨年11月のアジアン・ル・マンでもドライバーを務めた密山祥吾選手(文学部卒)と横溝直輝選手が交代でステアリングを握り、参戦マシン「TOP03」がサーキットを走行。ピット作業のデモンストレーションや、学生が開発したパーツなどの展示も行われた。参加した保護者からは、「学生の発表がしっかりしていて、成長の過程をうかがい知ることができた。普段は見ることのできない子どもの様子を見ることができ、うれしく思います」といった感想が聞かれた。

経験や技術を継承し実践的なスキルを磨く

同プロジェクトは、学生が開発したマシンで世界最高峰のレースを目指す挑戦として2001年にスタート。動力機械工学科では、同年から卒業研究テーマに「ル・マンカーの研究」を設定。プロジェクト型の活動として、ボディーやパーツを設計することから取り組んだ。

林義正教授は、「高い目標に向かって仲間と切磋琢磨することで、社会で即戦力として活躍できる人材を育成することが狙いだった」と語る。マネジメント能力も育成しようと、スケジュール管理や会議の運営も学生に任せる方針だったが、最初は教員の指示を受けて活動するのが精いっぱい。その対策として企業で取り入れられているプロジェクト運営の手法を導入。先輩が後輩をマンツーマンで指導し、日々の活動内容を文書化して残すことで、身につけた技術や経験を世代をこえて継承できるようになり、チームとしての総合力も高まっていった。

マシンを製作し学生の意欲も向上

そして05年には、ジャガー社製の車を改良したスタディーカーでテスト走行をするまでに。「実際にマシンができたことで全員の目の色が変わった。私自身もこのとき、活動の成果を一つの形にすることの重要性を実感した」と林教授。

08年にはプロメカニックの立山誠さんらをアドバイザーに迎え、マシン「TOP03」を製作。世界最高峰の耐久レースであるル・マン24時間レースに大学チームとして世界で初めて出場を果たす。レースではリタイアしたものの、学生の挑戦はACOなどからも高く評価された。さらに、09年からはアジアン・ル・マンシリーズに参戦。学生主体で運営しながらマシン開発を進め、10年のレースでは初の完走を達成。11年にはモータースポーツに教育的価値を見いだしたことが評価され、林教授にACOから「スピリット・オブ・ル・マン」が贈られた。

プロジェクトで学んだ学生は約200人。卒業生は、自動車の開発やレーシングチームなど幅広い分野で活躍している。工学部長の平岡克己教授は、「プロジェクト型学習の効果や可能性を象徴する取り組みだった。これまでの成果を生かしつつ、これからもものづくりを取り入れた教育プログラムを積極的に展開していきたい」と語っている。


卒業生の声~経験と自信が大きな財産
坂本優亮さん(08年度プロジェクトリーダー・現トヨタ自動車勤務)

社会人として働き始めて4年になりますが、ル・マンプロジェクトを通して学んだ人とのコミュニケーションの大切さをいつも痛感しています。入社後はインバーターの開発などにかかわってきましたが、1つの部品を作るにあたってもさまざまな部署の社員と調整する必要があります。企業では、一人でできる仕事はほとんどないというのが実感です。また実際にマシンを作り上げたことで、常に車全体を視野に入れて考える能力が身についたことも大きな武器になっています。世界最高峰の舞台への挑戦を通して得た経験や自信は、私にとって大きな財産になっています。


学科主任に聞く~専門分野の理解を高めるものづくり教育を
工学部動力機械工学科主任 円能寺 久行 教授

学びへの興味や目標を明確にもってもらうことを目的に、本学科ではモータースポーツを通じたものづくり経験を重視しています。カリキュラムでは、機械工学分野の基礎となる「力学」を十分に習得できるよう、少人数制の授業を開講。専門科目では理論や法則が実社会でどのように応用されているのかについて、具体例を提供して学問と産業のつながりを理解できるよう工夫しています。プロジェクト型学習は、授業で学んだことを体験的に理解するとともに、実社会で応用できる実践力を身につけることにつながっています。

本学科では「ル・マンプロジェクト」のほか、学生が開発したマシンでレースに出場するチャレンジセンター「Tokai Formula Club」などへの参加を推奨しています「Tokai Formula Club」は現在、1 年生から3年生によるエンジン駆動車の開発が中心ですが、今後は4年生の卒業研究のテーマに設定し、新しい動力による駆動車の研究・開発など、活動の成果を研究に直結させることも計画しています。

 
(写真上から)
▽保護者や卒業生とともに記念撮影。マシン「TOP03」は今後、湘南校舎で展示される予定だ
▽ラストランでサーキットを走るマシン。成果報告では保護者らが熱心に耳を傾けていた
▽デモンストレーションでは参加者を前に学生たちが迅速なタイヤ交換を披露した
▽日ごろの活動では、ミーティングなどで常に情報や目標の共有を心がけてきた

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