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特集

2013/08/01
教育の現場から
話題の授業や地域・企業と連携した課外活動など、東海大学の特色ある教育現場に迫ります。

大空への夢をかなえる

工学部航空宇宙学科航空操縦学専攻
専門技術と人間性を兼ね備えた優秀なパイロットを育成する

人間性豊かで広い視野を持ったパイロットを育成する――。2006年、日本の大学では初のパイロット養成コースとして設置された工学部航空宇宙学科航空操縦学専攻。今年3月に卒業した4期生のうち希望者全員が、エアラインパイロットとして航空会社に就職するなど着実に実績を残している。4月には、4年生を対象にした新たな試行授業もスタートした。

航空操縦学専攻は、団塊世代の大量退職などを前に、将来の航空業界を担う人材を養成することを目的に開設された。同専攻主任の柴田啓二教授は、「専攻開設から8年。昨年にはローコストキャリアが相次いで就航し、羽田空港の発着枠が拡大されるなど、パイロットへのニーズはますます高まっている」と語る。
 
同専攻では教員派遣やカリキュラムの開発など幅広い分野で全日本空輸㈱(ANA)と連携。アメリカ・ノースダコタ大学(UND)とも留学協定を締結しており、飛行訓練はUNDで実施。また航空業界を所管する国土交通省から支援を受けている。4年間で、アメリカの連邦航空局と日本の国交省航空局が認定する事業用パイロットの各種資格と、工学の学士を取得できるのが特徴だ。

日ごろの授業や訓練でプロ意識を養う

学生たちは、1年生で事業用パイロット国家試験の学科試験に必要な科目を受講し、航空英語の授業で実践的な英語力を磨く。その後、2年生と3年生の約15カ月間UNDに留学し、日米の事業用操縦士免許と日本の計器飛行証明を取得する。
 
乙守隼人さん(4年)は、「留学前から自主的に勉強会を開くなど、同じ夢を持った仲間が助け合う雰囲気が自然とできています。日ごろの指導を通じて、先生方から人の命を預かる仕事に携わる人間として、高い意識を持って勉学や訓練に臨むことの大切さを学べるのも魅力」と話す。
 
免許を取得した4年生は、湘南校舎にあるフライトシミュレーターを使って技能を磨きつつ、他のクルーと協力し、各種情報を有効に使って航空機を運航する方法を学ぶ「職業操縦士とCRM(クルー・リソース・マネジメント)」などを受講。全員が卒業研究にも取り組む。柴田教授は、「パイロットとして長く活躍するためには、技術だけでなく、課題を発見し解決する能力や、幅広い教養、自ら学び続ける姿勢を身につける必要がある。4年生はそのために欠かせない1年間と位置づけている」と語る。

ライン機の基礎を学ぶ新たな試行授業も導入
今年度からは、エアライン航空機の特徴などを学ぶ4年生対象の試行授業「エアライン・オペレーション概論」も開講した。エアライン航空機は機体ごとにライセンスが設定されており、パイロットは就職後に担当する機体のライセンスを取得する必要がある。柴田教授は、「在学中に全般的な知識や運航上の注意を身につけ、専門的な訓練によりスムーズに移行できるようにすることが狙い」と語る。
 
航空気象やエアライン航空機の運航方法について同専攻の教員が交代で講義しており、約10人が受講している。7月10日の授業では、柴田教授が空港に着陸する手順や路面が悪い場合の対処方法などについて、過去の事故例を交えて講義。「常に状況を把握しつつ、時間に余裕を持って着陸手順を進めることで事故は防げる。その基本を忘れないでほしい」と語った。
 
受講する千葉旭人さんは、「授業内容と、これまで身につけた知識や経験を結びつけることで、知識をより深く理解することにつながっている」と話す。「在学中から、運航ルールの背景にある理論などについて考える時間があるのがメリット」と言うのは中島亮さん。柴田教授は、「学生たちが航空業界で活躍する基礎を身につけられるよう、今後もカリキュラムの充実に取り組んでいきたい」と話している。

(写真)エアライン・オペレーション概論の授業では、訓練機とは異なるエアライン航空機の特性や性能を学ぶ

 
4期生の希望者全員がエアラインパイロットに
航空操縦学専攻を今年3月に卒業した4期生のうち、希望者全員にあたる32人が4月末までにエアラインパイロットとして航空会社に就職を果たした。これまで日本の航空業界では、自社で養成するか、年4回卒業の機会がある航空大学校の卒業生を採用することで、エアラインパイロットを確保してきた。そのため一般企業とは異なり、4月採用が一般的ではなく、同専攻の卒業生も不定期に行われる募集に応募してきた。就職委員の利根川豊教授は「全員がこの時期に就職できたのは、本専攻における教育への理解の高まりと、卒業生の活躍が評価されたのでは」と語る。
 
2013年5月1日現在、4期生を含む110人の卒業生がANAをはじめ14社にエアラインパイロットとして就職。そのうち40人はすでに副操縦士となっている。利根川教授は、「本専攻では卒業生も学内にあるフライトシミュレーターを利用でき、採用情報も配信するなどサポートを続けています。より多くの人材を航空業界に送り出せるよう、これからも積極的に支援していきたい」と話している。

 

教え子と飛ぶ日を夢見て
経験と知識のすべてを伝えたい

ANA現役パイロット 佐野克彦教授

今年4月、ANAの現役パイロットを続けながら、航空操縦学専攻の特任教授に着任した。「パイロットは、お客さまに快適で満足いただけるフライトを提供するのが仕事。毎日のように飛んでいても同じ状況に遭遇することはありません。一つひとつのフライトすべてで、達成感を得ることができるのが魅力です」と語る。
 
子どものころから飛行機が好きで、航空大学校卒業後はANAに就職。YS11やボーイン747の副操縦士を経て、1996年からボーイング767の機長に。世界の空を飛び回るかたわら、2001年からは同社の基礎訓練部で教官や技能審査員を務めるなど、後進の指導にもあたってきた。
 
自身の経験から感じているのは、「刻々と変わる複数の状況に対応しつつ、冷静により良い判断をできる力と人間性を両立させることの大切さ」だ。操縦の腕がどんなによくても、周囲からの信頼が得られなければ、いいパイロットにはなれないのだという。「旅客機は、プロフェッショナルなスキルを持つ整備士や副操縦士、客室乗務員など多くの人が協力して飛ばしています。パイロットは、オーケストラをまとめる指揮者のような役割。まとめ役として、常に高い教養を養い、人間性を磨くことが求められます」
 
同専攻では、1年生の「入門ゼミナール」や「航空概論」、4年生向けの「職業操縦士とCRM」などの授業を受け持っている。「授業では、学生たちがひとことも聞き漏らすまいと熱心に耳を傾けてくれる。彼らに私の経験や知識のすべてを伝えていきたい」と話す。「そしていつの日か、教え子を副操縦士に迎えて一緒に大空を飛ぶ。そんな日が来ることを楽しみにしています」

☆☆☆
1960年神奈川県生まれ。「私たちはお客さま一人ひとりの人生をお預かりして運んでいる。そのことを常に意識しながら仕事にあたっています」と語る

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