特集:教育の現場から
2014年11月1日号
別科日本語研修課程50周年座談会
先駆的な留学生教育を展開
実践的な語学力と発信力を培う


留学生の日本語教育を担う東海大学の別科日本語研修課程が、1964年の開設から50年の節目を迎えた。課程の修了生は3000人をこえ、全世界で公務員や会社員、教員などとして活躍している。その現場では、どのような教育を目指し、実現してきたのか-同課程で教鞭をとる国際教育センターの3人の教員が語り合った。 (構成・編集部)

─別科の教育ではどのようなことを重視してきましたか?
斉木 別科では現在140人ほどの学生が学んでいます。もともとは東海大学入学希望の留学生に日本語と数学などの基礎科目を教えるために開設されましたが、現在は日本語学習を希望する多様な学生を受け入れています。東海大の学部や大学院への進学を目指す学生、大学間の協定に基づく派遣学生など、目的もさまざまです。
村上 そのため、目標とする日本語能力のレベルも違ってきます。個々の学生の目標を達成して、次のステップに進めるよう支援するのが私たちの役目だと考えています。
宮城 その中で大切にしてきたのは、労を惜しまず学生と向き合うということ。授業中だけでなく、日常生活で困ったことがあれば、留学生がいつでも相談に来れるような雰囲気づくりを心がけてきました。

村上 手厚い指導を実現するため、一つのクラスを担任と複数の教員がチームで担当する体制をとっています。各クラスの雰囲気をできるだけ楽しくするよう心がけているのですが、どうしてもなじめず、授業についていけなくなる学生が出てきます。そうした学生にもできる限りの対応をするよう工夫しています。
宮城 「別科ならきちんと指導してくれる」と、兄弟や息子、娘を別科に入学させる卒業生も多いのですよ。
斉木 学生の生活面のサポートでは、今年から留学生を対象にした防災訓練と自転車講習会を始めました。留学生の中には地震などの災害が少ない国や、交通ルールが違う国から来る学生も多く、万が一のときの備えになると思います。

─日本語能力を育てる授業以外の科目も積極的に取り入れていますね
斉木 理系志望の学生には数学や物理や化学などを、文系には政治経済や歴史といった基礎科目を独自に作成したテキストなどを用いています。日本の大学で求められる基礎知識を固め、学部進学後にも困らないようにすることが目的です。さらに日本人学生が受講する韓国語や中国語などの会話の授業と連携し、韓国や中国からの留学生と日本人が互いの言語を学び合う授業もあります。
宮城 日本語教師を目指す学生向けに国際教育センターで開講している副専攻・特定プログラム日本語教育や、大学院文学研究科日本語教育学コース課程との連携も進んでいます。
斉木 別科では、春と秋に1週間ずつ公開授業を行っているのですが、そこには必ず、副専攻や大学院の学生が見学に訪れています。また、2011年度から副専攻の「日本語教育法概論」などを履修する日本人学生が別科の日本語の授業をサポートする教育支援制度もスタートしています。こうした取り組みを通じて、日本人と留学生双方が生き生きしてくるのがよくわかります。
宮城 留学生と接することで特に日本人学生が変わります。海外留学へのモチベーションが高まり、自信もついてくる様子がうかがえます。

─そのほかに特徴的な取り組みはありますか?
村上 秦野市教育委員会と連携して始めた「異文化理解講座」がその一つだと思います。留学生が市内の小学校を訪れ、児童に自国の文化を紹介することで、発信力をつけることが狙いです。この活動は大学の地域貢献にもつながっており、今年からは付属相模高校中等部でも同様の取り組みが始まりました。

斉木 給食や掃除を一斉に行うなど、日本の独特な文化に触れられたと留学生にも好評です。事前に授業の一環で発表を準備するのですが、「小学生に教える」という実践が控えているので、目的意識が高まるという効果も出ていますね。
宮城 毎年11月下旬から12月に開かれている恒例行事「国際フェア」も忘れてはなりません。このイベントは、日本人学生と留学生が協力して各国の文化や伝統を紹介する展示を作り、来場者に紹介します。昨年は19の国と地域の紹介ブースが出ましたが、日本人学生たちもさまざまな国から留学生が来ていることを知り、文化を理解する機会にもなっています。

─将来に向けてひとことお願いいたします
斉木 単に日本語が話せるだけでなく、「発信力」や「日本を理解する」という教育に焦点を当てていきたいと思っています。たとえば、日本人学生と留学生が一緒に学べる正規科目をもっと増やせれば、別科がキャンパス内にある立地を生かした生き生きとした学習環境が整うと思います。
村上 修了生との連携も深めていきたいですね。タイや韓国、台湾など各国にある同窓会同士のヨコのつながりをもっと緊密にして学習支援・生活支援に役立てていきたいと思っています。

宮城 学園の創立者・松前重義博士は、「世界平和のためには若いときに教育を通して交流することが大切である」と語っていました。1963年の湘南校舎開設当時、菊池靖著『留学生とともに』によると、全学生5600人のうち留学生は43人でした。この数字からも、創立者の国際交流に力を注ぐ気持ちが伝わってきます。もう一度その理念を思い起こすことから歩み始めたいと考えています。

(写真上から)
▽和気あいあいとした雰囲気の中で行われている日本語の授業
▽左から村上教授、宮城教授、斉木教授
▽「異文化理解講座」で訪れた秦野市立広畑小学校で児童と遊ぶ留学生。日本への理解を深める機会にもなっている
▽1970年代初頭の授業風景
▽日本文化体験の一環で各地での研修旅行も行われた(写真は1970年の箱根での研修旅行)

 
所長に聞く
日本語教育への多様なニーズに応える
国際教育センター 片山恵一 所長

別科日本語研修課程は、人種や信仰、社会体制などにとらわれることなく、世界中の国から来た留学生に開かれた教育の場として、1964年に設立されました。開設当時こうした組織を持つ大学は国内でも少なく、実践的な日本語を身につけられる先進的な取り組みとして、そのカリキュラムは高く評価されてきました。これまで30をこえる国と地域から約3000人の学生を受け入れてきました。修了生からは大使や外交官、国を代表する研究者、ビジネスマンなどを数多く輩出しています。

別科では正規課程として1年間のカリキュラムを開講していますが、その入学生数も年々増加しています。一方、近年ではベトナム原子力プロジェクト人材育成計画や、国際協力機構の依頼に基づく派遣留学生など、東海大学が受け入れた各国からの研修生に対する日本語教育機関としての役割が、これまで以上に重要になってきています。

今後もこれまで培ってきたノウハウを生かしつつ、幅広いニーズに応えていくことで大学のグローバル化に寄与していきたいと考えています。