Column:Point Of View
2020年4月1日号
「出会い」がもたらすもの
医学部看護学科 森屋宏美 講師

春は出会いの季節である。出会いとは、「出会った」と意識することで初めて成立するもので、そうでなければ出会ったことに気づかない。出会いには、同じクラスや友達からの紹介など、多くの人が経験する説明のつくものもあれば、論理をこえたところで成り立つもの、たとえば会った瞬間に言葉を失ったり、時が止まったかのように感じる「運命的な出会い」もある。

特に大切なのは、肯定的感情をもたらしてくれる人との出会いだろう。なぜなら、肯定的感情は個人の強みや人生の幸福感に影響があるとされるからだ。肯定的感情には、遊びを促進する「楽しみ」、新しい知識や冒険に向かう「興味」、深く感じて味わう「愛」など、さまざまな種類がある。肯定的感情を研究しているアメリカの心理学者、B・フレドリクソンによると、これらは思考や行動の幅を広げ、豊かさをもたらす資源を獲得する作用を持つ(拡張形成理論)という。

出会いといえば、職場近くにある一風変わった書店の店主を思い起こす。そこにはおびただしい数の本が山積みにされており、自動ドアが開くと奥から少ししゃがれ声の店主が呼びかけてくる。「今日は何を探しているの?」。これこれこうだと説明すると店主はおもむろに立ち上がり、積み重なって不安定な上のほうの本を手で押さえながら、下のほうにある1冊を引っこ抜いて渡す。

ある日、私はこのようにして哲学辞典を手に入れた。この索引には、イソモルフィズムとかコスモポリタニズムとか(少なくとも私の)日常生活では全く用いることのない言葉が並んでいる。それでも、何かに行き詰まったときパラパラとページをめくると大概のことは解決される。

しばらくしてお礼を言いに行くと、店主は多くを語らず目を細めながら、また新しい本を薦めてくる。出会ってからこの春でちょうど15年になるが、いまだに私の名前を認識しているかさえ怪しい。

教育の場には、大抵あなたの思考や行動の幅を広げてくれる本があり、仲間や教職員がいる。そして前向きな気持ちのあなたがいてこそ、あらゆる出会いに息が吹き込まれる。これからの1年間で、あなたに“一生モノ”の出会いが訪れますように。

(筆者は毎号交代します)

 
もりや・ひろみ 東海大学大学院健康科学研究科看護学専攻修了。専門は基礎看護、遺伝看護。