コラム
2024/06/01
私は現在、ドイツで在外研究をしている。法律のテキストからだけでは捉え切れない多くのことが、現地での体験や経験を通じて見えてくるからだ。
日本で教壇に立っていたとき、学生から「なぜ外国法を学ぶ必要があるのか」という質問を受けることがあった。私が専門とする知的財産法の 分野では、インターネットを介した知的財産権の侵害が議論の対象となる。
外国のオンラインモールでの海賊版商品販売や海賊版サイトからのコンテンツの送信などがその一例だ。国境を越えた事案が頻繁に発生していて、外国法との関連性は無視することができない。だからこそ外国法の学びが必要なのである。
もちろん、法(解釈)学全般においても外国法の重要性は変わらない。たとえば、日本で生じている問題を外国ではどのように解決したのか、その解決のためにどのような考え方に基づいたのか、そしてその結果としてどのような理論が構築されたのかを知ることで、その問題に対する複眼的な視点を得られる。しかし、外国法の学習には特有の難しさもある。法制度はその国の文化や歴史、社会に深く根ざしており、その国の価値観を抜きにして法律を学ぶだけでは、真に理解することは困難である。
法の背景にある文化や価値観を知るためには、実際にその国に滞在し、生活し、現地の人々と交流することが有効だと考えている。
私が滞在しているドイツでは、公共交通機関のストライキが頻繁に起きている。その結果、目的地に到着できなかったこともある。そこでの体験、日常会話から漏れ聞こえるストライキの影響を受ける一般の人たちの考えや労働についての価値観、さらには労働者の権利保護の歴史を知ることも、ドイツの法律の理解に大いに役立っている。
外国法を真に学ぶことは、単なる法律の学習を超え、その国の文化や社会への理解にもつながる。AIやVRなどの新たな技術の登場により、グローバルな問題の解決が求められる現代社会ではその重要性が高まっているのではないだろうか。
(筆者は毎号交代します)
2024/11/01
スモール・イズ・ストロング
2024/10/01
サックスという趣味を続ける③
2024/09/01
学歴社会から専門性を重視する社会へ
2024/08/01
スモール・イズ・バルネラブル
2024/07/01
サックスという趣味を続ける②
2024/05/01
スモール・イズ・ビューティーフル
2024/04/01
サックスという趣味を続ける①
2024/03/01
人生は長い旅路
2024/02/01
“違和感”が教えてくれたこと
2024/01/01
理科で学ぶ「条件制御」を日常に
2023/12/01
趣味のすゝめ
2023/11/01
海を渡ってブリコラージュ
2023/10/01
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2023/09/01
君たちはどう逃げるか
2023/08/01
「未来塾」で見る日本社会の「未来」
2023/07/01
「分かりやすさ」にご注意
2023/06/01
衣付けの楽しみ
2023/05/01
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2023/04/01
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2023/02/01
骨にまで残る病気
2023/01/01
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2022/12/01
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骨に記録された食事
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まず隗より始めよ①
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面接室の外の心理療法
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歯の抜き方も好き好き?
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模索の日々
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サメに食べられたヒト
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挑戦できない社会人を大量生産しないために
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コロナ禍で進むICT利活用、今後は?
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喘息と獣
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2021/01/01
〈自分の意見〉を伝えること
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お題③ざんねんないきもの
2020/11/01
動物愛護とアニマルウェルフェア
2020/10/01
〈別れ〉と向き合う
2020/09/01
お題② 平均