コラム
2023/10/01「自分の人生を豊かにしてくれた本は何か」と聞かれたとき、皆さんはどのように答えるだろうか。最近、こんな話題について仲のよい研究者たちと語り合う機会があった。注目すべきは「人生の役に立った本」ではなく「人生を豊かにしてくれた本」ということである。研究の役に立った本ならいくらでもある。しかし「人生を豊かにしてくれた」というと少し考えなければならないだろう。ここで私の「推しの一冊」を紹介することは紙幅の都合上できないが、研究者仲間と推し本を語り合う中で感じたことを2つほど共有したい。
1つ目は、無難な自己紹介よりも、はるかにその人のことを理解できるということである。その人がその当時どんな困難を抱えていたのか、その本の影響でどのように考え方が変わったのか、今は何を大事にしているのか。読書体験の語りによって、その人の価値観や信念が浮かび上がってくるように思えた。
2つ目は、研究者の信念とその人が研究するテーマの不可分性である。考えてみれば当たり前なのだが、自身の嫌いな研究テーマで論文を書くことはまずないだろう。自分の興味や関心、支持する理論、善と思える価値観があるからこそ取り組みたいと思う研究テーマが決まるのである。論文の内容そのものを理解することはもちろん重要ではあるが、筆者の価値観や信念まで想像して読み解くことで、筆者の立場(スタンス)も理解することができるであろう。こうした筆者の立場まで含めて理解しようとする態度は、その人と円滑にコミュニケーションするうえできわめて重要なことであると思う。
以上、「推し本」の語り合いで感じたことを簡単に紹介してきた。「推し本」の語り合いは本当に楽しい時間であった。読書は人生を豊かにする力を秘めている。学生の皆さんには大学生活の中で「推しの一冊」にぜひ出会ってほしいと思っている。(筆者は毎号交代します)
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