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コラム

2025/03/01
学生と日々接する中で感じていることや思いなど、
毎年3人の東海大学の教員がそれぞれの視点からつづるリレーエッセイ。

未来を決める主権者教育のヒント

法学部法律学科 内田 剛 准教授

2024年の半ばごろから、世界的に選挙の季節にあるといえます。日本では衆議院議員選挙、アメリカでは大統領選挙が行われ、ドイツでも連邦議会議員選挙の投開票が今年2月23日に行われました。各国の選挙シーズンが重なり、政治への関心が高まっているこの時期、特にドイツでの選挙についての考え方に注目してみました。

 

ドイツでは、政治的な内容も含めさまざまな議論が国民間で非常にオープンに行われています。選挙が近づくと、職場の同僚との会話、さらには多様な立場の人が参加する会食の場でも、移民問題やインフレ、国際紛争などの話題が活発に議論されます。家族や友人間でも同様で、政治的な議論はドイツの日常生活の一部となっています。

 

オープンな議論文化は、学校での政治教育にも反映されています。ドイツでは欧州議会議員選挙など一部の選挙については16歳から選挙権が与えられます。学校では、具体的な政治課題について自分で考え、意見を表明することが重視されるディスカッション形式での授業が広く行われています。これにより、若年層の政治的な興味が喚起され、政治参加意識が非常に高く、実際の投票行動にもつながっています。

 

一方で、日本に目を向けると、オープンな場はもちろん、家族や友人間での政治的な議論についても、まだまだ発展の余地があります。日本での若年者の教育においても、政治課題に関する議論を交わすような実践の場を充実させていくこともできるでしょう。従来の主権者教育での民主主義の制度や意義の理解に加えて、具体的な政治課題について議論する機会を増やすことで、立場によってさまざまな意見があることを理解できます。その中で自らの意見を持ち、それを他者に伝える力を養うこともできます。

 

日本では18歳選挙権を実現する法改正からほぼ10年が経過し、関心が薄れてきたのか若年者の投票率は伸び悩んでいます。具体的な政治課題について考え、議論する教育の実践は、若年者の政治への関心を高めます。ひいては若者の意見を反映した社会を実現する原動力になるかもしれません。(筆者は毎号交代します)

内田剛(うちだつよし)

1979年沖縄県生まれ。博士(法学)。著書に『ファッションロー第2版(共著)』など。専門は法学(知的財産法)。2024年現在、ドイツのマックス・プランク イノベーション競争研究所で在外研究中。

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