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コラム

2025/02/01
学生と日々接する中で感じていることや思いなど、
毎年3人の東海大学の教員がそれぞれの視点からつづるリレーエッセイ。

スモール・イズ・フューチャー

海洋学部水産学科 李 銀姫 准教授

昨年4月に静岡県で、「Bright Spots~Hope Spots」というテーマで小規模漁業の国際会議が東海大学の後援の下に開催された。小規模漁業を問題(Problem)としてではなく、ソリューション(Solution)、ホープ(Hope)として捉えていくべきだとの、力強いメッセージを発信できた重要なイベントとなった。

 

そのホープを持てるさまざまなイニシアチブとして特筆に値するのが「海業(うみぎょう)」である。小規模漁業は資源や地域を守るなど多様な機能を有する一方で、海洋環境の変化などを背景とした不安定な漁業経営や後継者・担い手不足、地域活力の低下といった課題を抱えている。そんな中、それらを打破し、新たな地域の生業を生み出そうという概念が「海業」だ。「漁」だけに頼っていた生業から、地域に潜在・顕在する地域資源を生かす「海」の生業を創出し、力強い漁業・漁村を築こうとするもので、漁業者を中心とした地域住民が主体となる点で、一般的な海関連の経済活動とは異なる。海業をマリンビジネスと訳さず、日本語そのままの「Umigyo」としている理由もそこにある。今後は海業の積極的な展開が求められ、そこには大学生のような若い人たちの発想力やアイデアが必要とされている。 

 

そう言えば、前述した会議のもう一つのメッセージは「一致団結」であった。会議のクロージングセレモニーでは、国籍を問わず参加者全員が、「Icchi-Danketsu!」と一斉に声を上げて、幕を閉じた。小規模漁業が周縁化されがちな状況を変えようと、世界中の研究者たちが集まったのは2010年。小規模漁業に特化した世界初の国際会議が、タイ・バンコクで開かれた。今では、85カ国から800人以上が関わるグローバルパートナーシップ「TBTI」へと成長している。20年には日本支部「TBTI Japan」もでき、研究者だけでなく、漁業者や行政関係者、学生、NPO、実務者らが一緒になって、多岐にわたる研究・教育活動が繰り広げられている。このような大規模なネットワークが形成される理由は、小規模漁業は単純に「無視するには大きすぎる(Too Big To Ignore=TBTI)」からである。(筆者は毎号交代します)

李銀姫(りぎんき)

1977年中国生まれ。博士(海洋科学)。海洋政策研究財団研究員、カナダ・ニューファンドランドメモリアル大学客員教授を経て現職。専門は、小規模漁業・沿岸漁業。TBTI (Too Big ToIgnore)Japanディレクター、国際一本釣り財団(IPNLF)理事等を務めている。『In the Era of BigChange(2020)』を共編著、『水面上の生命(2022)』を共編訳。

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