コラム
2025/04/01文化社会学部広報メディア学科 野口将輝 准教授
私が広報メディア学科で担当する「広報概論」のシラバスは、次の文章から始まる。 「私たちは、残念ながら宇宙飛行士になることは難しい。私たちは、残念ながらロケットを開発することは難しい。しかし、私たちがこれから学ぶ広報PRが無ければ、宇宙飛行士はロケットに乗って宇宙に行くことは極めて難しい」
1969年7月20日、アポロ11号のニール・アームストロングが、人類史上初めて月の大地に足跡を刻んだ。しかし、そのわずか3年後の72年12月、アポロ17号のユージン・サーナンが月面に残した足跡を最後に、人類は半世紀もの間、月を訪れていない。
2014年に出版された『月をマーケティングする アポロ計画と史上最大の広報作戦』によれば、その両者の背景には広報が大きな影響を及ぼしているとされる。宇宙開発には莫大な費用がかかる。ロケットの打ち上げに失敗すれば、「地球にはまだ解決すべき課題が山積しているのに、なぜ宇宙に多額の税金を使うのか」という批判が広がることになる。それでも、アームストロングが「月のファーストマン」として歴史に名を刻めたのは、米ソ冷戦という時代背景の中、NASAが広報によって、宇宙開発への国民の期待感を生み出したからだ。一方、現在に至るまでサーナンが「ラストマン」のままである理由の一つは、宇宙探査への期待や支持を集める広報が十分に機能していないからではないだろうか。
企業がモノを売る際も同じだ。「推し活」が当たり前になった現代では、人々は推しのアイドルに時間やお金を惜しみなく注ぐ。他にも「男性のメイク」や「マッチングアプリでの出会い」もそうだ。それを支持し、よしとする社会の雰囲気が必要だ。実際、「大学進学と対面授業」が当たり前とする雰囲気がなければ、広大な湘南キャンパスを持つ本学も、その存在意義を問われるかもしれない。
本学広報メディア学科は、国内で唯一「広報」を学科名に掲げている。だからこそ「広報が重要だ」という雰囲気が社会に根づかなければ、学科そのものの存続も危うくなる。そんな中、私はこの文章で「広報を広報」してみた。さて、いくらか伝わっただろうか? 日本でいちばん面白い広報の講義を、広報メディア学科で履修してみよう。 (筆者は毎号交代します)
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