share

コラム

2024/08/01
学生と日々接する中で感じていることや思いなど、
毎年3人の東海大学の教員がそれぞれの視点からつづるリレーエッセイ。

スモール・イズ・バルネラブル

海洋学部水産学科 李銀姫 准教授

「テーブルにいなければ、メニューに載っている(If you are not at the table, you are on the menu)」

 

これは、意思決定の場にいなければ、取り残されてしまい、やがては自らがメニューに載り、食べられてしまうことを意味する言葉で、家族経営を中心とする世界中の「小規模漁業」が置かれている状況を表す、最も適切な表現であると言えよう。

 

小規模漁業は、さまざまな時代の多様な変化を乗り越え、古くから地域の資源と社会を守ってきた。しかし、その機能はSDGs14「海の豊かさを守ろう」をはじめとするSDGsの実現において大いに期待されているにも関わらず、規模が小さいことなどから、政策の意思決定の場において無視され、周縁化されているのが現状だ。これまでも、貧困、食料不安、資源やマーケットへのアクセス問題、ジェンダー不平等、不公平な資源配分など、多くの課題に直面してきた。

 

近年では、海に関わるあらゆる経済活動を指す広い概念である「ブルーエコノミー(Blue Economy)」などのイニシアチブにおいて、取り残されてしまう脅威にもさらされている。

 

ブルーエコノミーは、2012年の「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」で取り上げられて以来、世界中で広がっており、多くの国々において関連研究と政策が進められている。このイニシアチブは、海洋の持続可能な発展を目指す方法として期待される一方、小規模漁業に関してはその関連政策の中で周縁化され、そこから起因する公平性・公正性の問題が指摘されている。

 

小規模漁業が海を利用するステークホルダー(利害関係者)の一つとされながらも、そのステーク(利益)が高かったことは一度もないと言われるゆえんもそこにある。

 

このように小規模漁業は、今日の地球規模における海洋環境の変化、社会経済構造の変化、政策・制度の変化など「大変化」時代の中、既存の課題と新たな課題を抱えるようになっている。諸変化への対応・適応がうまくできず、存続の危機にさらされているバルネラブル(脆弱)な立場にある。(筆者は毎号交代します)

李銀姫(りぎんき)

1977年中国生まれ。博士(海洋科学)。海洋政策研究財団研究員、カナダ・ニューファンドランドメモリアル大学客員教授を経て現職。専門は、小規模漁業・沿岸漁業。TBTI (Too Big ToIgnore)Japanディレクター、国際一本釣り財団(IPNLF)理事等を務めている。『In the Era of BigChange(2020)』を共編著、『水面上の生命(2022)』を共編訳。

Point of View記事一覧

2024/11/01

スモール・イズ・ストロング

2024/10/01

サックスという趣味を続ける③

2024/09/01

学歴社会から専門性を重視する社会へ

2024/07/01

サックスという趣味を続ける②

2024/06/01

外国法を真に学ぶ方法と必要性

2024/05/01

スモール・イズ・ビューティーフル

2024/04/01

サックスという趣味を続ける①

2024/03/01

人生は長い旅路

2024/02/01

“違和感”が教えてくれたこと

2024/01/01

理科で学ぶ「条件制御」を日常に

2023/12/01

趣味のすゝめ

2023/11/01

海を渡ってブリコラージュ

2023/10/01

「推し本」を語り合うこと

2023/09/01

君たちはどう逃げるか

2023/08/01

「未来塾」で見る日本社会の「未来」

2023/07/01

「分かりやすさ」にご注意

2023/06/01

衣付けの楽しみ

2023/05/01

ぷらっと優しいつながりを

2023/04/01

AIが変える検索と教育の未来

2023/03/01

カウンセリングとアドボカシー

2023/02/01

骨にまで残る病気

2023/01/01

まず隗より始めよ②

2022/12/01

カウンセラーもがまださんと!

2022/11/01

骨に記録された食事

2022/10/01

まず隗より始めよ①

2022/09/01

面接室の外の心理療法

2022/08/01

歯の抜き方も好き好き?

2022/07/01

活用なき学問は無学に等し

2022/06/01

模索の日々

2022/05/01

サメに食べられたヒト

2022/04/01

挑戦できない社会人を大量生産しないために

2022/03/01

コロナ禍で進むICT利活用、今後は?

2022/02/01

真夜中の争奪戦

2022/01/01

黒い雪

2021/12/01

思考の整理に便利なツール

2021/11/01

3年半を振り返って

2021/10/01

月明かりが生む闇のかたち

2021/09/01

アフターコロナの学びを考える

2021/08/01

分類学と博物館を巡る旅

2021/07/01

喘息と獣

2021/06/01

学ぼうと思ったきっかけ

2021/05/01

深海魚と私

2021/04/01

作品をみることは、自分自身をみること

2021/03/01

お題〈番外編〉 卒業を振り返る

2021/02/01

趣味を通して世界を広げる

2021/01/01

〈自分の意見〉を伝えること

2020/12/01

お題③ざんねんないきもの

2020/11/01

動物愛護とアニマルウェルフェア

2020/10/01

〈別れ〉と向き合う

2020/09/01

お題② 平均