コラム
2024/11/01
「共有地の悲劇」を聞いたことがあるだろうか? これは、アメリカの生態学者であるギャレット・ハーディン氏が、みんなで利用する資源(共有資源)は、誰もが利用できるオープンアクセスの性質があるため、何もしないで放っておくと荒廃してしまうという悲劇を起こすと、世の中に警鐘を鳴らしたものだ。世界的に大きな反響を呼び、水産資源を含めた自然資源の管理政策にも大きい影響を与えた。
しかしその後、「共有地の悲劇」論は大きく覆された。それは、みんなで利用する共有資源であるにもかかわらず、資源が荒廃することなく、いい形で維持され、利用されていることが、世の中にたくさんあることが分かってきたからだ。そこには、自然資源と共に生きる地域住民がいて、人と人はつながっており、資源の利用に関する地域のルールや取り決め等の存在が背景にある。このような背景が重視されれば、共有地は「悲劇」ではなく、「喜劇」にもなり得れば、「ロマンス」にもなり得る。このような視点がハーディンの「共有地の悲劇」では欠落しているのだ。
日本は、昔から資源と共に生きる人々やコミュニティーを大事にしてきた。江戸時代から「磯は地付、沖は入いり会あい」という資源利用ルールがあり、地先の沿岸は地域住民やコミュニティーが利用・保全管理してきた。この慣習的なルールは現代にも受け継がれ、日本沿岸の資源や魚食文化などを守ってきている。このような仕組みは日本独特のもので、海外からも注目を浴びてきた。日本に「共有地の喜劇」が多く存在するのもその所以である。
私にこのような優れた日本を気づかせてくれたのは、まだ留学生だったころ、京都のとある漁村に1週間ほど滞在した経験だった。「浦島太郎の里」と呼ばれる伊根町の本庄浦という漁村。丹後半島に立地し、長い間地域経済が漁業に依存する純漁村であるが、資源状況の悪化から地域経済の活力が低下してきた、今日の典型的な日本の漁村でもある。
しかし、厳しい環境の中でも決して諦めることなく、皆が一緒になって新たなことに挑戦するその後ろ姿は、何よりもストロングだった。
(筆者は毎号交代します)
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