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コラム

2014/08/01
学生と日々接する中で感じていることや思いなど、
毎年3人の東海大学の教員がそれぞれの視点からつづるリレーエッセイ。

HOME 愛しのカラトリイモ

海洋学部海洋文明学科 関いずみ 准教授

ここのところ、家に帰るのが楽しい。私を待っているのは「カラトリイモ」だ。5月の半ばに山形県庄内地方で農業を営むTさんからいただいてきた。背丈5㌢の小さな苗だったカラトリイモは、毎日にょきにょきと成長し、ひと月もたたぬ間に45㌢ほどに育ってしまった。新たに出てきた3枚の葉は、最初の葉より3回りくらい大きくなって、その緑色はますます深みを増している。

カラトリイモはサトイモの一種で、秋田県や山形県などで昔から栽培されてきた。Tさんによると、雪深い土地柄だったため、芋よりもその上のズイキと呼ばれる葉柄のほうが重要だったそうだ。芋の部分ももちろん食するが、葉柄は湯がいて和え物にしたり、乾燥させて保存食として煮物にしたり、庄内地方ではなじみ深い食材だという。

最近「静岡在来作物研究会」なるものに参加し、農村にも出かけるようになった。在来作物とは、それぞれの地域で古くから栽培されてきた農作物のことで、生産から利用にわたる暮らしの知恵や技術の継承を象徴している。水産物にも、「地魚」と呼ばれるような地域に根づいた産物があり、独特の調理法が伝わっていたりする。けれどもそういった地元の産物と私たちの暮らしはだんだん離れていっている、と感じることがある。

Tさんの家では、カラトリイモを作っていた母親が高齢になり、作るのをやめるつもりだったという。ところが、山形在来作物研究会会長の江頭氏(山形大学農学部)や、在来作物を取り入れた料理を提供している奥田シェフ(イタリアンレストラン、アル・ケッチャーノ)との出会いが、カラトリイモを表舞台へ押し上げていった。生産者とともに歩む彼らの取り組みは、ドキュメンタリー映画『よみがえりのレシピ』(渡辺智史監督)となって、全国を回っている。

在来種を守っていくためには、それらをきちんと利用すること、つまり出口をしっかり整えていくことが大切だ。伝統を見直し、あるいは新たな発想で、地元の産品を積極的に活用していくことこそが、地域の生産そのものを支えていく力になるのだと思う。

(筆者注:『HOME 愛しの座敷わらし』は「愛しの座敷わらし」(荻原浩著)の映画化。ただし、本文とは全く関係ありません)

(筆者は毎号交代します)

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