share

コラム

2016/12/01
学生と日々接する中で感じていることや思いなど、
毎年3人の東海大学の教員がそれぞれの視点からつづるリレーエッセイ。

ジャズを聴こう!②「A列車で行こう」

高輪教養教育センター 田丸智也 准教授

「A列車で行こう」は、さまざまなアレンジで演奏される超定番楽曲です。デューク・エリントン楽団の代表曲ですが、作曲者はエリントンではなく、ビリー・ストレイホーンです。

ストレイホーンは、ペンシルバニア州で音楽を学び、1933年(18歳)と38年(23歳)のときに楽団のライブを体験しました。この2回目の演奏後、ストレイホーンと話したエリントンは、彼にアレンジの才能を見いだし、39年にニューヨークへと呼び寄せることになります。
 
エリントンは当時マンハッタン島、ハーレム西側にあるSugar Hillという高級住宅地に住んでいました。39年にストレイホーンは、エリントンから旅費をもらって自宅までの道順を教わります。その際、メモに地下鉄のA急行を利用するように書いてありました。
 
実はこれがアイデアの源なのです。「A」というと「特等車」のイメージがあるかもしれませんが、実は地下鉄(8th Avenue Line)の急行のことだったのです。
 
ところで、同年、米国作曲家作詞家出版者協会(ASCAP)がラジオ等放送に関する使用料を大幅に値上げしました。これにより、協会に加入していたエリントンも自身の作品をメディアで演奏できなくなってしまったのです。このとき、ストレイホーンとマーサー・エリントン(デュークの息子)は、ASCAPに対抗する団体であるBMIに加入し、エリントン楽団の新曲を大量生産し登録しました。「A列車で行こう」も、こうした楽曲の一つにすぎなかったようです。
 
マーサーによれば、この曲の草稿は、既存の楽曲に似すぎていたため、一度はストレイホーンが自ら破棄したのだそうです。それをマーサーが「ゴミ箱から拾った」と語っています。その後手直しされ、41年1月にラジオ放送の録音が、2月に最初のレコードの録音が行われました。 

学生の皆さんが音楽を聴いたり演奏したりするとき、こうした創作の歴史に触れることはまれだと思います。時代背景、作曲技法、楽器技術などの視点から楽曲を俯瞰してみると、音楽の楽しみ方がいっそう豊かになります。
(筆者は毎号交代します)

Point of View記事一覧

2024/11/01

スモール・イズ・ストロング

2024/10/01

サックスという趣味を続ける③

2024/09/01

学歴社会から専門性を重視する社会へ

2024/08/01

スモール・イズ・バルネラブル

2024/07/01

サックスという趣味を続ける②

2024/06/01

外国法を真に学ぶ方法と必要性

2024/05/01

スモール・イズ・ビューティーフル

2024/04/01

サックスという趣味を続ける①

2024/03/01

人生は長い旅路

2024/02/01

“違和感”が教えてくれたこと

2024/01/01

理科で学ぶ「条件制御」を日常に

2023/12/01

趣味のすゝめ

2023/11/01

海を渡ってブリコラージュ

2023/10/01

「推し本」を語り合うこと

2023/09/01

君たちはどう逃げるか

2023/08/01

「未来塾」で見る日本社会の「未来」

2023/07/01

「分かりやすさ」にご注意

2023/06/01

衣付けの楽しみ

2023/05/01

ぷらっと優しいつながりを

2023/04/01

AIが変える検索と教育の未来

2023/03/01

カウンセリングとアドボカシー

2023/02/01

骨にまで残る病気

2023/01/01

まず隗より始めよ②

2022/12/01

カウンセラーもがまださんと!

2022/11/01

骨に記録された食事

2022/10/01

まず隗より始めよ①

2022/09/01

面接室の外の心理療法

2022/08/01

歯の抜き方も好き好き?

2022/07/01

活用なき学問は無学に等し

2022/06/01

模索の日々

2022/05/01

サメに食べられたヒト

2022/04/01

挑戦できない社会人を大量生産しないために

2022/03/01

コロナ禍で進むICT利活用、今後は?

2022/02/01

真夜中の争奪戦

2022/01/01

黒い雪

2021/12/01

思考の整理に便利なツール

2021/11/01

3年半を振り返って

2021/10/01

月明かりが生む闇のかたち

2021/09/01

アフターコロナの学びを考える

2021/08/01

分類学と博物館を巡る旅

2021/07/01

喘息と獣

2021/06/01

学ぼうと思ったきっかけ

2021/05/01

深海魚と私

2021/04/01

作品をみることは、自分自身をみること

2021/03/01

お題〈番外編〉 卒業を振り返る

2021/02/01

趣味を通して世界を広げる

2021/01/01

〈自分の意見〉を伝えること

2020/12/01

お題③ざんねんないきもの

2020/11/01

動物愛護とアニマルウェルフェア

2020/10/01

〈別れ〉と向き合う