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コラム

2017/12/01
学生と日々接する中で感じていることや思いなど、
毎年3人の東海大学の教員がそれぞれの視点からつづるリレーエッセイ。

公衆電話があった風景

文学部広報メディア学科 加島卓 准教授

街で公衆電話を見かけなくなった。総務省の情報通信白書によると、設置台数は1984年の93万4903台を最高に、2016年には16万1375台にまで減少。特に2000年代になってからそのペースは加速し、背景には携帯電話の急速な普及がある。

ここでちょっと昔話をすると、街のどこに公衆電話があるのかは、携帯電話のない時代にはとても重要な情報だった。たとえば、商店街のタバコ屋には「赤電話」が設置され、雨風をしのげる公衆電話ボックスには「青電話」や「黄電話」があった。公衆電話の場所さえ知っていれば、遠く離れた大事な人といつでも連絡をとれるというわけである。

しばらくすると、公衆電話はダイヤル式からプッシュ式になった(1975年)。興味深いのは、電話をかける仕草が「指をグルグル回転させること」から「指でボタンを押すこと」に変わったことである。デザインの変更が新しい身体の動きを生み出し、それが社会の風景になった。

1982年になると、テレホンカードが導入された。実はそれまで公衆電話を使うためには、あらかじめ小銭をたくさん用意しなくてはならなかった。そしてコイン投入口の横に山積みにして、通話が途中で切れてしまわないよう工夫をする必要があった。テレホンカードの登場は、公衆電話を「コインの枚数を常に気にする場所」から「度数が減るペースをじっと見守る場所」に変えたのである。

印象的だったのは、1990年代前半にポケットベルが都市部の若者の間で流行したときである。テレホンカードを持った子どもたちがプッシュホン式の公衆電話の前で、黙々とボタンを連打しては次々と人が入れ替わる姿が見られた。ポケットベルの登場は、公衆電話を「話すための機械」から「メッセージを送信するための機械」に変え、それが社会の風景になった。

古い建物の中には、公衆電話を設置するためにわざわざ用意された場所が今でも残る。その場所にかつて何があり、どんな人が誰と何を話したのか―。歴史を通じて社会を研究するとは、こうした想像力を働かせることである。あなたが最後に公衆電話を使ったのはいつですか?

(筆者は毎号交代します)

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