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コラム

2018/01/01
学生と日々接する中で感じていることや思いなど、
毎年3人の東海大学の教員がそれぞれの視点からつづるリレーエッセイ。

文部科学省の仕事

理学部化学科 冨田恒之 准教授

大学に限らず、学校と呼ばれる組織は、一部を除いて文部科学省の管轄となっている。国としてどのような教育を行い、どんな人間として育てるかを考え、その結果がこの国の将来をかたちづくっていくことになる、重要な役割を担う省庁である。私は2年間、文科省で仕事をした経験があり、今回はそこで感じたものを伝えたい。

大学の教員という立場からすると、文科省はいわゆる「お上」に相当し、大学は文科省の決めたルールに則って運営されなければならない。ルールを決める側がより強い立場にあり、それに従う側は弱い立場にあるように感じることもある。しかし一方で、文科省側から大学を見たときには、必ずしもそのような強い立場とは感じなかった。これは、文科省が「現場」ではないからだ。

文科省は教育や研究に対して大枠となるルールを決めるが、それらを実行するのは大学であり、現場の教職員である。国全体としてこうしたい、という方針をつくるのだが、実際には個々の大学に動いてもらわないとそれらは実現できない。文科省という大きな看板はあるものの、仕事そのものは裏方である。

議員と官僚という関係も、両者の仕事においては表舞台と裏方のような関係がある。議員は選挙で当選するために、自分の仕事を多くの人に知ってもらう必要がある。また選挙のサイクルを考えると短期間で結果を出さなければならない。一方、官僚と呼ばれる人たちは個人として成果をアピールする必要はなく、長いスパンでの最適解を出そうとし、裏方に徹する。立場の違う人間がともに仕事をすることで、バランスが保たれている側面もあるだろう。

東海大学も75周年を過ぎ、次は100周年という長いスパンを意識し、今やるべき選択肢を決めていく。100周年のときに入学する学生はまだ生まれてすらいないことになるが、それでもすでに準備はスタートしている。

大学の中でも表に出る仕事、裏方に徹する仕事がある。それぞれの役割は異なるが、よりよい教育と研究を行い、よりよい人材を育てて社会に送り出す、という大きな目的は皆同じだ。立場の違う人たちの仕事を理解しながら、2018年に何を実行するか、あらためて自分自身に問いかけている。

(筆者は毎号交代します)

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