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コラム

2013/04/01
学生と日々接する中で感じていることや思いなど、
毎年3人の東海大学の教員がそれぞれの視点からつづるリレーエッセイ。

流動化する時代を生きる力

本田量久 観光学部観光学科准教授

今日、私たちは不確実性の時代を生きている。以前ならば、終身雇用や年功序列などの日本的雇用慣行、国民保険や年金といった社会保障制度によって、安定的な生活水準を保障されたが、今は全く状況が異なる。経済のグローバル化、世界的な金融危機の影響などによって、多くの企業が経営悪化に陥っている。これに連動して労働市場は流動化し、非正規雇用で就労する若者が増えた。
 
数年先の景気や労働市場の動向さえ読めない時代にあって、結婚や出産を躊躇(ちゅうちょ)する人が増えており、この傾向はこの先も続くだろう。ほかにも、生活保護世帯の増加、高齢者の孤独死なども深刻な問題で、コミュニティーや家族の相互扶助機能が失われつつあることを示している。
 
さらに将来に対する私たちの不安を増幅させているのが、2011年の東京電力福島第一原発の事故である。廃炉まで約30年の工程を要するといわれている。つまり、私たちは、制御不能に陥っている原発とあと30年間付き合わなければならない。原子力の専門家らでさえも事態を完全には把握できないのだから、多くの市民が原発事故に伴う影響をわかるはずもない。健康問題、食の安全、環境問題など、私たちの生存そのものにかかわる重大な問題であるにもかかわらず、である。
 
日本の豊かさを支えてきた資本主義、社会保障制度、科学技術の可謬(かびゅう)性が明らかになった今日、私たちはどこに向かっているのだろうか。多くの人は、現在進行形で世界中で起こっていることに無関心であるようにみえる。就職難の時代にあって、学生は卒業後の進路を考えるだけでも精いっぱいで、数十年後のことを考える余裕がないのかもしれない。
 
しかし、今こそ不確実性の高い時代を論理的かつ多角的に読み取る力を養ってほしい。若いときに知を磨かず、自分だけの世界に埋没するならば、10年後も流動化する時代の中で無為に漂流を続けることになるだろう。未来は若者にかかっているということを銘記してほしい。

(筆者は毎号交代します)

 
ほんだ・かずひさ 1973年神奈川県生まれ。立教大学社会学部卒業、社会学研究科博士課程修了(社会学博士)。専門は社会学理論など。

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