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コラム

2014/05/01
学生と日々接する中で感じていることや思いなど、
毎年3人の東海大学の教員がそれぞれの視点からつづるリレーエッセイ。

現実と情熱のあいだ

海洋学部海洋文明学科 関いずみ 准教授

先日、ある漁協が経営する定置網の漁労長に会いに行った。経験1年ほどの20歳代からベテランの60歳代まで、総勢11人の乗組員を束ねるのは、27歳の若き漁労長だ。

実は6年ほど前にこの漁協を訪ねた際、定置に就職して3年目くらいの彼に一度会ったことがある。そのとき彼は早朝からの仕事を終え、同世代の仲間と一緒に、自分たちで買った中古の船外機船で海に出て戻ってきたところだった。今日はイセエビが大漁だったね、などとうれしそうに話していたものだから、当時の組合長が驚いた顔をして、どのくらい大漁だったの? と聞くと、満面の笑顔で片手の指を大きく広げて見せた。居合わせた先輩漁師たちは大笑いしたが、彼らの表情は本当に満足そうだった。

2011年の東日本大震災と津波は、定置網にも大きな被害をもたらした。先が見えない状況の中、幼い子どもの父親になっていた彼は、悩んだ末に陸の仕事に変わる決心をする。だが、震災の翌年の秋、彼は再び海に帰ってきた。仕事のトラックで海辺を走っていたら、無性に海に戻りたくなったのだと言う。

漁師になりたい。その思いで水産科のある高校に進み、思いを貫いた彼は、ある意味とても幸せかもしれない。しかし、それでも人生にはいろいろなことが起こる。そのたびに私たちは何かしらの選択をしなければならないし、ときには意に沿わない選択肢しか見いだせないこともあるだろう。これだ、と思って飛び込んでも、やっていくうちに、何か違うと思うこともあるかもしれない。ここの定置網では、新卒者の採用を積極的に行っているが、震災前までの10年間に就職した18人のうち、現在に至るまで漁師を続けているのは4人だけだ。

将来何をやりたいか、そんな問いに即答できる人はなかなかいないと思う。でも、これかもしれない、と思えるときがいつか必ず訪れる。ある日突然ひらめく場合もあるだろうし、わからないままに目の前の仕事に取り組み、何十年もたったときに、これでよかったのかも、とじんわりわかることもある。そして、どういう道をたどったとしても、その時々を大事に過ごしていれば、やってきたことのすべては決して無駄にはならないものである。(筆者注:『冷静と情熱のあいだ』は辻仁成と江國香織による恋愛小説で、後に映画化もされました。ただし、本文とは全く関係ありません)

(筆者は毎号交替します)

 
せき・いずみ 1963年東京都生まれ。東海大学文学部卒業、法政大学大学院人文科学研究科地理学専攻修了。専門は漁村社会学、地域計画。

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