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コラム

2014/11/01
学生と日々接する中で感じていることや思いなど、
毎年3人の東海大学の教員がそれぞれの視点からつづるリレーエッセイ。

さらば夏の碑

海洋学部海洋文明学科 関いずみ 准教授


日本人は古来より、すべてのモノには霊魂が宿ると考え、動植物や道具等、生活にかかわるあらゆるモノを供養してきた。

ここ数年、水域の生物に関するいくつもの供養碑をめぐり、供養祭に参列してきた。心に残るものはいくつもある。神奈川県の川崎大師境内には、海苔養殖に関する2基の碑がある。一つは1920年に建立された「海苔養殖紀功之碑」。碑文には、1871年に4人の村人によって始められた海苔養殖が、明治の漁業法制定時には数百軒の漁家が従事する、地域の一大産業へと発展した経緯が記されている。

この碑と隣り合わせで建っているのが「海苔供養祭文碑」だ。1886年に建立されたもので、「海苔の精を招魂して川崎漁業協同組合主催のもと至心に海苔供養祭を厳修す」とある。高度経済成長期に東京湾の大規模な埋め立て工事が進み、最盛期には500人をこえる組合員を擁した海苔養殖も、1971年には漁業権を放棄せざるを得なくなってしまった。この碑には100年続いた海苔養殖の終焉を記念するとともに、これまで生活を支えてくれた海苔への感謝が込められている。

日本海側の有数なナマコ産地である七尾市石崎漁港では、能登なまこ加工協同組合の主催で2010年に初の「なまこ供養大漁祈願祭」が行われた。その後、「全国なまこサミット」として毎年開催されている。シンポジウムやナマコ創作料理の大食談会、翌日には漁港の荷捌き所で供養祭が執り行われ、地元の子どもたちによってナマコが放流される。国内有数のナマコ産地である青森からは、ナマコ研究者だけでなく、「ナマポン」なるゆるキャラまで
来訪し、厳粛なる供養の面と、イベント的な側面とが混在した供養祭となっている。

時代とともに、供養の形は変化してきているのかもしれない。けれども供養の根底に流れる意識は、時代をこえて継続しているのではないだろうか。そして、漁業のような産業、つまり生き物のいのちを頂戴して成り立つ生業は、「供養」によって完結するのだろう。


先日、私たちの供養碑研究のリーダーであり、同僚であった田口理恵先生が急逝された。一緒に供養碑を巡ることも、一緒に飲むことも、一緒に港まつりでかっぽれを踊ることも、もうできないのだと思うと、寂しさと喪失感でいっぱいになる。心からご冥福をお祈りします。

(注:「さらば夏の日」は1970年に製作されたフランス映画。ただし当然ながら、本文とは全く関係ありません)
(筆者は毎号交代します)

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