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コラム

2015/05/01
学生と日々接する中で感じていることや思いなど、
毎年3人の東海大学の教員がそれぞれの視点からつづるリレーエッセイ。

過去と現在を踏みしめる

文学部ヨーロッパ文明学科 柳原伸洋 講師

大学入学、おめでとう! そして、全ての進級者達(チルドレン)に、おめでとう。

しょっぱなから、新入生の多くが生まれる前のアニメのネタで失礼。入学したあなた、あるいは進級したあなたは、大学という宇宙に投げ込まれてしまった。(行ったことないけども)宇宙空間では、上下左右の方向感覚を失う。大学は、教員が研究成果という「ネタ」を次々と繰り出す果てしない「知の宇宙(コスモス)」。「日本から9000キロも離れたドイツのことなんか、興味ないよー」と、学生が思っていても、私はドイツについて語り尽くす、そんなカオスだ。

小中高と、テストや集団行動という分かりやすい方向づけをされてきた、あなた。大学に方向づけはない。あなたは、右や左へ行こうとも、努力しようとも怠けようとも、自由だ! 素晴らしき世界!

しかし、そんな自由な大学には悩める子羊たちが群れをなしている。「やりたいことがないんです!」。こう相談してくる学生は数知れず。実際はケースバイケースで回答するが、ここではこう答えたい。「やりたいこと」を探そうとするのは、あなたの心に2回分の負担をかけている。「やりたい」という望みを、「探そう」と試みているからだ。そこで提案だ。

第一に、心に2回の負担をかけるならば、友人・知人に話してみて、負担を半分以下にしよう。第二に、「やりたいこと」を未来志向で考えるよりも、過去志向で「やったこと」を考えたりするのも、よい。つまり、たとえば、あなたが文学部に「入った」のであれば、たまに後ろ向きに、「入った」という事実をかみしめよう。「なすべきこと」よりも「なしてきたこと」、それを冷静に捉え直すのも大切だということだ。「なしてきたこと」は、あなたの財産だ。ただし感傷的に、ノスタルジックに捉えるのではなく、次への一歩を踏み出すための土台として捉えなおす。そんなことを、大学ではやってほしい。これは、一生役に立つ思考法だと思うから。

最後に、現在志向の話。あなたが見ているこの風景は、今しか存在しない。今を大事にしつつも、4年間の変化を歴史として愉しもう。いつか、大学時代という貴重な時間を、「なしてきたこと」として振り返る自分自身のために。

(筆者は毎号交代します) 

やなぎはら・のぶひろ 1977年京都府生まれ。東京大学大学院博士課程の後に、在ドイツ日本大使館専門調査員を経て現職。専門はドイツ現代史。著書に『ニセドイツ』シリーズ(伸井太一名義・社会評論社)などがある。

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