コラム
2019/08/01健康学部健康マネジメント学科 古城隆雄 准教授
2019年10月から幼児教育・保育の無償化が、来年20年4月から高等教育の無償化が予定されている(主な対象は、一定所得以下の世帯)。
ところで、1人あたりの保育費をご存じだろうか?
公定価格を国が決めており、地域の物価や保育園の体制等によって増減される。保護者は、公定価格の一部を負担している。年間保育費は、0歳児約240万円、1~2歳児約150万円、3歳児約90万円、4歳児約70万円だ(地域や保育園によって異なる)。 就学前まで積算すると、かなりの高額である。
大学の授業料は国公立で年間約54万円、私学だと70万円以上である。無償化政策により、国公立は入学金と授業料が実質的に無償化され、私立大学でも最大70万円が公費で補助される。
当然だが、無償化とは「タダでサービスが提供されること」ではない。本来は利用者が負担すべき金額を、国民全体で負担する仕組みだ。無償化になればコスト意識を持つ人はいなくなるだろう。
扇動的で誇張した表現だが、無償化とは多くの国民が無自覚に、一部の高所得者に多額の負担を強いる政策である。なぜなら政策費用の大半は応能負担(高所得者ほど多く負担する)で賄われるからだ。これを垂直的公平性と呼び、公平な負担とされる。だから、それ自体に異論はない。
ここで、一緒に考えたいことは、「無自覚」であることだ。コストの無自覚は、過剰な利用を促す。昔は老人医療費、最近は小児医療費の無料化で、何度も見られた現象だ。0歳児の年間保育費が240万円と知ったら、無償化してほしいとは言いにくくなるだろう(大学の授業料が1回3000円以上だと知ったら、大学生はもっと積極的に学びたいと思うだろうか?)。
誰が負担するかの無自覚は、高所得者や企業の逃亡を促し、無責任な借金を増やす。国民が負担を忌避した結果、国債発行残高は900兆円をこえ、世界1位の赤字国家になった。
人類はその昔、国民を支配していた国主から、革命によって、一人ひとりの自由を勝ち取った。自分の自由を守りたければ、他人の自由も大切にしなければならない。
無償化政策は、一人ひとりのそうした自覚をなくさせる、悲劇の政策ではないか。少し考えてみてほしい。
(筆者は毎号交代します)
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